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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、再放送毎週土曜日22:00-、毎週日曜21:30-、などでオンエアー中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.121~情熱のピアニズム~】

 先日”情熱のピアニズム”というジャズ・フィルム(正確にはジャズ・ドキュメント・フィルムだが)を試写会で見た。その“ピアニズム”の主役は、1998年に36才で夭逝してしまった、ヨーロッパを代表する天才ジャズ・ピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニ。フランス出身の彼は母国では神格化される存在だが、日本ではジャズファンぐらいしかその名前を知らないだけに、この地味なドキュメント・フィルムに人が入るかは(渋谷で単館上映されその後全国公開)いささか疑問だが、ぼくは大変に面白かった。

 情熱的で躍動的、しかもその底に苦渋も秘めた圧巻のピアニズム。確かに彼はジャズ界の英雄ではあったが、音楽一家に生まれ育った彼が人々の注目を集めたのは、そのプレーだけでなく、彼が障害者、全身の骨が壊れやすいための発育障害、身長が1メートルに満たない小人だということにもある。ぼくも彼のステージを2回ほど「ブルーノート東京」で見たのだが、共演のベーシストに抱きかかえられステージに登場し、ピアノの椅子に導かれるといった具合で、あんな感じでどんな演奏が…と思うのだが、いざ演奏が始まってみるとそのピアノに圧倒され尽くすと言った感じで、まさにミューズ(音楽の神)の申し子と言った趣きだった。

 そんな天才の早すぎる一生を、彼の周りの人物などの証言を基に綴った1時間40分ほどのドキュメンタリーで、監督は「イル・ポスティーノ」などで知られるマイケル・ラドフォード。彼自身はジャズに興味はないようで、ペトルチアーニの存在も、フィルム制作のオファーを受けるまで知らなかったと言う事だが、それ以降生前の彼について資料を集められるだけ集め、このフィルムを作り上げたのだった。こんなに小さく奇異な見てくれにも関わらず、ペトルチアーニは人生を謳歌し活動的に生き、実に女にもてた人物だったようで、突然に捨てられてしまった女性達も、みな一様に、彼のことを慈しんで彼のことを語っているのが印象的だった。最後の女性とは籍も入れたらしく子供も出来るのだが、その子供も遺伝のせいでまた彼と同じく小人だった(その息子も画面に登場し、偉大な父親を讃えている)ことも、彼を痛く打ちのめしたらしい。 

 自身も早死にと言う事を常に感じ、生き急ぐように人生にそして演奏にのめり込んだ感じは強いが、そのハンディキャップにも関わらず、いつも陽気でポジティブだったとフィルムは語ってくれている。演奏場面はそう多くはないが、色々と考えさせられる素晴らしいジャズドキュメントだけに、ぜひ多くの人に見て欲しいものと思う。いい映画、素晴らしい人生。ジャズやっぱりいいものですね。


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