9月3日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報] [テイスト・オブ・ジャズ]
2020/09/03(木) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週木曜22:30~23:00(本放送)と金曜18:30~19:00(再放送)で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.529~与那国島の馬飼い】

  梨木香歩の「やがて満ちてくる光」(新潮社)というエッセイ集を、この盛夏の最中に読んだ。梨木は一般には児童文学者あるいは絵本作家として知られ、彼女のデビュー作となる「西の魔女が死んだ」は、最近の日本の児童文学(ジュブナイル小説)の一つの頂点とも評され、中学の国語の教科書などにも載っているとも聞く。そうした彼女だけにどうも児童文学者と言ったイメージも強いのだが、エッセイストとしても作家としても素晴らしい存在だ。「沼地のある森を抜けて」「家守奇譚」など、森や植物、鳥、昆虫など自然をテーマにした、そのナチュラルで柔らかい手触りの深味ある作品群は、独特の光彩を放っている。 

  しかし彼女のエッセイを読んでいて強く感じるのは、自然をこよなく愛しながらも、常に社会へのコミットメントも忘れない...と言う、そのきっぱりとした姿勢である。エッセイ集の冒頭に置かれた「守りたかったもの」のラストは「何とか声を挙げて行きたいと思うのは、きっとこれが私たちの望んでいる社会の筈がない、と言う頑固な驢馬の様な確信に、私自身が"守られている"せいなのかも知れない」となっている。このエッセイが書かれたのは2004年。それから既に16年余り、時代はそして日本自体も、残念なことに彼女の危惧以上に、どんどんと悪い方向に向かってしまっている。そして今の未曾有のコロナ禍。個々人がもっとしっかり社会にコミットして行かないと...。

 さて今回のコラムだが、メインはそうした所では無く彼女のエッセイ集の中に収められた「生まれいずる未知の物語り」のインタビューアー、河田桟(さん)と言う女性の存在なのである。このインタビュー(2013年)も実に示唆に富んだ素晴らしいものなのだが、そのインタビューアーがまたなんとも素敵なのだ。といった所で梨木自身に彼女を紹介してもらおう。「彼女は東京で本に纏わる仕事をしていた。このインタビューの数年後、与那国島でみなしごの牝馬と偶然出会う。カディと名付けたその牝馬と暮らすため、与那国島へ移住し馬飼いとなる。彼女は(馬との付き合いを通し)心の深い底から、世界に発信しようとしているのだ。彼女の言う「はしっこ」与那国島で...。
 この素敵な文章を読み、すぐに河田桟で検索するとカディと与那国馬(原種)達が東シナ海に面した草原で、のんびりと草を食む写真が出て来てほっこりと癒される。彼女はこの島で自身の出版社(カディ出版)も立ち上げ、馬との関わりをエッセイ写真集に纏め上げ、既に3冊も発表しているのだ。ブログには彼女とその牝馬、そして彼女が拾って来たと言う子猫の写真もアップされており、一人と2匹のなんとも和やかな生活振りが微笑ましくあるが、それが日本の西端の与那国島でのものだと言うことにちょっとしたショックを感じてしまう。
 
 10年以上前に台湾特番の取材で、台湾東海岸の宜蘭県の浜辺に立ち寄ったおり、案内の県庁役人が「風の強い晴日ならば、此処からはるか先に与那国島の島影が見えるんですよ...」と教えてくれた、その日本最西端の島。ぼくはまだ訪れたことの無いこの島で、かつて書評やインタビューアーなど、書籍文化の最先端を担う仕事をされていた東京在住の若い女性が、馬飼いでとしてもう既に10年近く生活しているのだと言う。なんとも厳しくもあるが夢のある話だと思う。と同時に彼女の意志の強靭さにも驚かされてしまう。お前ならばどうする...などと自問自答するのだが、やはりいい歳をした気弱な「ウインビー・ジジイ」のぼくなどは、ただただ彼女の存在・行動に圧倒されるだけなのです。

【今週の番組ゲスト:ピアニストの太田寛二さん】
新譜『AT JULIAN』から
M1Minor Misharp
M2Webb City
M3Remember
M4Cottage For Sale