9月24日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報]
2020/09/24(木) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週木曜22:30~23:00(本放送)と金曜18:30~19:00(再放送)で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.532~ジャズベースの巨星消える】

 わが国では安倍首相の退陣、ジャーニーズ事務所会長の引退など、政界&興業界を牛耳ってきたそれぞれの大物が、ひっそりと(?)ステージを降りることになったが、海の向こうでは本物の実力派芸術家が、80余歳の生涯を閉じてしまった。ゲイリー・ピーコック。ジャズファンならば知らない人はいない、屈指のジャズベースの偉才にして鬼才。
 その彼が危ないと言うニュースは、ジャズ関係者の間でここ数日駆け巡っていたが、家族が正式発表、広く知られることとなった。ポール・ブレイ、ビル・エバンス、そして我らがプーさんこと故菊池雅章など、優れたピアニストの脇には常に彼の存在があった。そして今は引退同然の屈指のピアニスト、キース・ジャレットの至高トリオ、それはピーコックとジャック・ディジョネット(ds)との不朽コンビで、もう数十年続く現代ジャズの究極とも言えるピアノトリオでもある。

 彼はまた日本との縁も深く、初リーダー作は確かソニーの伊藤潔ディレクターがプロデュースしたものだったし、よく来日し一時は東京に住んでいたこともあるほどの親日家。キースのスタンダードトリオを始め、ピアノトリオの印象が強い彼だが、忘れられないのは前衛ジャズの闘士、夭逝したアルバート・アイラ―(sax)の鮮烈なデビュー作『ゴースト』。フリージャズの一つの極致とも言えるこのピアノレストリオ作品。そのベースこそ、若き日のピーコックだったのだ。ある意味完璧なベーステクニシャンであり、深化したジャズ思想家でもあった彼。彼の名前をアルバムクレジットで見つければ、自然と手が伸びてしまう...と言ったぼくのフェイバリットベーシストだったが、その死は残念だしとても悲しい。

 ところでピーコックと言えば、ラジオ屋としてのぼくにとっても想い出深いミュージシャンなのだ。またスタジオに遊びに来た...等と言った与太話を...と思った方もいるかも知れないがそれは違う。残念ながらそんな事実は無い。ただラジオ屋稼業を始めたその最初期に、偶然ラジオ東京(現TBS)のドキュメンタリーシリーズの一本を聞いた。確かタイトルは「ゲイリー・ピーコックを追って」。その頃彼はどこかの寺で修行しているのでは...と言う噂があり、それを確かめるために今は東北のある大学の学長になっている、見城美恵子アナ(早稲田大の同期で薄い知り合い)が、その噂の真相を求めて探し回ると言うロードドキュメンタリー。番組は最後に彼が修行している京都の禅寺に辿り着くのだが、その斬新な手法にいたく感激、こんなドキュメンタリーを是非作りたいと思ったものだった。その制作者こそ、10数年後に一緒にラジオドキュメンタリーなどの仕事をさせてもらうことになり、今も親交が続いているラジオ界の鬼才にして、早稲田大の先輩でもある、ラジオ&TV界の重鎮、河内紀氏なのである。彼は「ラジオの学校」と言うラジオ屋の教則本とも言えるエッセイ集もものしている超インテリ。平塚在住なので近くの湘南の海辺の海鮮居酒屋で年2回ほど懇談をするが、いつも刺激を受け続けている。

 ぼくの関係しているジャズブログ「ジャズ・トウキョウ」でも、次号はピーコック追悼特集をするので何か書いて欲しいと頼まれたが、編集長にこのラジオドキュメンタリーの話をし、又キース・ジャレットトリオに最も親しい映像ディレクターが河内氏(キースは彼に全幅の信頼を寄せている)であることから、是非先輩に原稿依頼して欲しいと頼んだ。その結果はどうなったか決まっていないようだが、ゲイリー・ピーコックと言えばその卓越したベース技と共に、ぼくのラジオ屋としての師匠で原点、河内紀さんの存在がすぐに思い起こされるのである。

【今週の番組ゲスト:今週はジャズトーク 音楽評論家の青木和富先生に「変な曲」というテーマでお話し頂きました】

M1Valse Hot / Sonny Rollins

M2Brilliant Corners / Thelonious Monk

M3How Time Passes / Don Ellis

M4Relaxing at Camarillo / Charlie Parker

M5Israel / Bill Evans

9月17日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報]
2020/09/17(木) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週木曜22:30~23:00(本放送)と金曜18:30~19:00(再放送)で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.531~バード生誕100周年】

 我々が今ジャズと呼んでいるモダンジャズ。このスタートは「バード」ことアルトサックス奏者、チャーリー・パーカーと、「ディズ」ことトランペット奏者のディジー・ガレスピー、このコンビによるビ・バップ(バップ)の創出だったことは、ジャズファンならばもう自明の事実だろう。ビ・バップはそれまでのスイングジャズ~ある意味ダンス音楽で当時のポップミュージックだったアメリカ音楽の主流を覆し、ジャズを聴き味わう=観賞用の音楽へと高めた(変質)させた画期的なものだったとも言える。そしてその音楽的なリーダー役がパーカーで、ステーツメント役(宣伝係)がガレスピーだったとも言える。ガレスピーはスイングミュージックとは一変した、この新規のジャズ音楽を一般に浸透させるために、高音でのアクロバティックなコミカル技なども駆使、見た目も派手な衣装でステージに登場、宣伝役として大いに気を吐いた。一方のバードことパーカーは、酒と麻薬の破滅的人生を送りながら、バップコンセプトの進化・深化に勤め、多くの後輩ミュージシャンとも積極的に共演、ビ・バップの完成に腐心した。まあこの2人の努力により、モダンジャズの基盤とも言えるビ・バップは多くの若者たちの支持を受けるようになり、ジャズの新しい時代=モダンジャズの時代が1950年代に入るとスタートを切るようになる。新しいジャズ時代の到来だったのだ。

 その音楽的支柱、モダンジャズの開祖とも呼べるアルト奏者のチャーリー・パーカー、その生誕100周年が今年なのである。例年ならばこれに関連したジャズイベントやアルバム発売など、様々な催しや盛り上げ企画なども行われる筈だったが、このコロナ禍でイベント企画も難しく、CD発売なども見送られてしまったようだ。ファンとしては寂しい限り。こうなったら名匠クリント・イーストウッドがかつて監督したパーカー一代記映画「バード」を鑑賞しながら、彼の偉業を確かめるしかないなーなどと思っていたら、思わぬ朗報が飛び込んできた。パーカーの生誕100周年を記念して彼の新しい評伝集が、音楽系出版社から出されるのだと言う。タイトルは「バード チャーリー・パーカーの人生と音楽」。

 そういえばこの本の話はバードの生まれ故郷カンサス。シティーの情報にめっぽう詳しいT女史から以前聞いたことがある。チャック・へディックスと言うカンサスシティー在住の作者は、日本で出版できる出版社を探しているから協力してもらえないか...とも言われたが、余りあてはない。生誕100周年に合わせて出したいのだ...とも言われた。その企画の実現がこの評伝集だったのである。T女史の名前は実際に本にも載っている。そしてこの評伝集の訳者が、昔からの友人で今やジャズ本の訳者として定評のある川嶋文丸氏、そして編集が昔ジャズ雑誌の編集部にいて付き合いの古い池上信次氏だと知り、これは是非番組でも...と思っていた所、川島氏から連絡があり、この評伝集を話題にすることにした。ゲストは当然に川嶋氏と池上氏。

 パーカーについては今までも評伝集がいくつも出ているが、今回の本の強みは作者がカンサスシティ在住のジャズ研究家だと言うこと。それだけに彼の子供時代から青年期、ニューヨークに進出するまでがこれまでの本には無いほど、詳しく描かれていること。今まであまりスポットの当たらない部分がクローズアップされたのだとも言えそうである。番組ではこの本の面白さなどを2人に語ってもらい、新しい事実の発見や未発表写真の発掘などの苦労談も語ってもらっている。曲は全部で5曲。それぞれがこれぞパーカーと言うナンバーを紹介してくれ、またこの時期に『ベスト・オブ・パーカー』と言う生誕記念アルバムも出されることになったので、そこからも選ぶことにした。
 モダンジャズ界、最高の天才にして惜しくも夭折してしまったバードことチャーリー・パーカー、この機会にぜひもう一度彼の偉大さを、番組で確かめて欲しいもの。

【今週の番組ゲスト: 今年8月にシンコーミュージックから発売された『バード チャーリー・パーカーの人生と音楽』を紹介 翻訳家の川嶋文丸さん 編集者の池上信次さん】

 https://www.shinko-music.co.jp/item/pid0648390/

M1
Tiny's Tempo / Tiny Grimes Quintetto
M2
KoKo / Charlie ParkerDizzy Gillespie
M3
Relaxin' at Camarilo / Charlie Parker New Stars
M4
Just Friends / Charlie Parker With Strings
M5
Tico Tico / Charlie Parker & His Orchestra
 

 


 

9月10日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報]
2020/09/10(木) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週木曜22:30~23:00(本放送)と金曜18:30~19:00(再放送)で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.530~奄美大島のシンガーソングライター】

  先週のこのコラムでは、東京で書評家・ライターなど書籍関連の仕事をしていた女性(河田桟)が、突然日本の西の端の与那国島で馬飼いになってしまった話を紹介したが、今回も南の島に移り住んだ女性の話である。但し今回はその女性が、我が「テイスト・オブ・ジャズ」のゲスト(TEL収録)なのである。

  ミヤタトモコ(宮田朋子)、奄美大島在住の彼女は、知る人ぞ知る素敵なジャズ系シンガーソングライターである。歌の勉強のために本場NYに渡った彼女は、生活の糧を得るためにウオールストリートの証券会社に勤め、バリバリのキャリア女性として大いなる実績も上げ、証券ウーマンとしてもかなりなものだったらしい。一方本職のシンガーとしてはNYのクラブで歌ってもいた。そんな彼女の才能を見出したのが、NYのブラジリアンミュージックの最高峰、ギタリストのホメロ・ルバンボ(当然ブラジル人)だった。その彼の推薦もあり、彼女はブラジリアンテイストの素敵なアルバムを2枚、ホメロやホメロ人脈の凄い面々と共に吹き込む。その中ではホメロとのデュオも披露、番組でもホメロ作曲のその曲も紹介することにしている。

  その後仕事の忙しさなどもあり、体に変調をきたしてしまった彼女は、帰国を余儀なくさせられる。傷心のなか全国各地を旅して偶然出くわしたのが南の島、奄美大島だったという訳。そこの南の端の方の街に住みだして既に数年、奄美の伸びやかな自然の中での生活から生まれた作品を集め、3枚目のアルバムを作り上げることになった。『大きな海の中を行く私たち』。

  ぼく自身は彼女のこと、これまで全く知らなかったのだが、アルバムがなかなかに良いからとジャズ関係者から勧められ聴いてみると、これがそのとおりでかなりグッドなのである。そしてバックを日本を代表するブラジリアン系ギタリスト、藤本一馬が務めているのも大いに気に入った点。ほとんどのナンバーが彼のギターだけをバックにしたシンプルな作りなのである。録音は現地の中心都市、名瀬市の有名な楽器店「セントラル楽器」で行われている。
 そして何よりもぼくがこのアルバムに惹かれたのは、彼女が拠点を奄美大島に定めていること。この島にはぼくはまだ2度ほどしか訪れておらず、もう10数回訪れている沖縄本島程には良く知らないのだが、ここからは島尾敏雄・ミホという素晴らしい作家夫妻が登場しており、更にあの元ちとせもここの島唄の代表的歌い手...と言う、ぼくが愛するこの2組がこの島に深く関わっているのだ。以前この島を訪れた時は、車を駆って元ちとせの生まれ故郷、深い山に囲まれた海辺の僻地集落にようやく辿り着いたりもした。またそのまま島の最南端の街(宮田さんが今住んでいる町の筈)に行き、対岸の加計呂島に船で渡り、「出発はついに訪れず」等彼の戦記物に描かれた、島尾夫妻の余りにも哀惜で美しい出会いの場所(島尾敏雄は人間魚雷の艦長、ミホは加計呂島の族長の娘)を訪れ、一人感慨にふけったりと、ある種の奄美大島フリークなのでもあります。

 それだけに彼女が奄美大島在住と言うのに惹かれ、これは是非番組に...と交渉、ようやく今回TEL出演と相成った次第。電話回線の状況が今一つなので編集作業も大変だったが、ミヤタトモコと言う素敵な女性シンガーの魅力は、それなりに出せたろうと自負する。アルバムには奄美の歌者、前山慎吾とのデュオ「よいすら節」も収められており、もう1曲民謡の「こきりこ節」も聴かれる。
 「今を生きる全ての人に向けられた静かなエール」と惹句にあるがその通りで、アルバムは彼女の心境を映した様な個人的な手紙とも言え、ラストナンバーは「すべてはおなじこと」。静かな良い終わり方だ。

【今週の番組ゲスト:奄美大島在住のシンガー ミヤタトモコさん】
3rdアルバム
『大きな海のなかをゆく私たち』
1stアルバム
Secret of Life』から

M1
Let Me...
M2Rio Dos Deuses
M3「あなたの笑顔」
M4「よいすら節」

9月3日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報]
2020/09/03(木) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週木曜22:30~23:00(本放送)と金曜18:30~19:00(再放送)で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.529~与那国島の馬飼い】

  梨木香歩の「やがて満ちてくる光」(新潮社)というエッセイ集を、この盛夏の最中に読んだ。梨木は一般には児童文学者あるいは絵本作家として知られ、彼女のデビュー作となる「西の魔女が死んだ」は、最近の日本の児童文学(ジュブナイル小説)の一つの頂点とも評され、中学の国語の教科書などにも載っているとも聞く。そうした彼女だけにどうも児童文学者と言ったイメージも強いのだが、エッセイストとしても作家としても素晴らしい存在だ。「沼地のある森を抜けて」「家守奇譚」など、森や植物、鳥、昆虫など自然をテーマにした、そのナチュラルで柔らかい手触りの深味ある作品群は、独特の光彩を放っている。 

  しかし彼女のエッセイを読んでいて強く感じるのは、自然をこよなく愛しながらも、常に社会へのコミットメントも忘れない...と言う、そのきっぱりとした姿勢である。エッセイ集の冒頭に置かれた「守りたかったもの」のラストは「何とか声を挙げて行きたいと思うのは、きっとこれが私たちの望んでいる社会の筈がない、と言う頑固な驢馬の様な確信に、私自身が"守られている"せいなのかも知れない」となっている。このエッセイが書かれたのは2004年。それから既に16年余り、時代はそして日本自体も、残念なことに彼女の危惧以上に、どんどんと悪い方向に向かってしまっている。そして今の未曾有のコロナ禍。個々人がもっとしっかり社会にコミットして行かないと...。

 さて今回のコラムだが、メインはそうした所では無く彼女のエッセイ集の中に収められた「生まれいずる未知の物語り」のインタビューアー、河田桟(さん)と言う女性の存在なのである。このインタビュー(2013年)も実に示唆に富んだ素晴らしいものなのだが、そのインタビューアーがまたなんとも素敵なのだ。といった所で梨木自身に彼女を紹介してもらおう。「彼女は東京で本に纏わる仕事をしていた。このインタビューの数年後、与那国島でみなしごの牝馬と偶然出会う。カディと名付けたその牝馬と暮らすため、与那国島へ移住し馬飼いとなる。彼女は(馬との付き合いを通し)心の深い底から、世界に発信しようとしているのだ。彼女の言う「はしっこ」与那国島で...。
 この素敵な文章を読み、すぐに河田桟で検索するとカディと与那国馬(原種)達が東シナ海に面した草原で、のんびりと草を食む写真が出て来てほっこりと癒される。彼女はこの島で自身の出版社(カディ出版)も立ち上げ、馬との関わりをエッセイ写真集に纏め上げ、既に3冊も発表しているのだ。ブログには彼女とその牝馬、そして彼女が拾って来たと言う子猫の写真もアップされており、一人と2匹のなんとも和やかな生活振りが微笑ましくあるが、それが日本の西端の与那国島でのものだと言うことにちょっとしたショックを感じてしまう。
 
 10年以上前に台湾特番の取材で、台湾東海岸の宜蘭県の浜辺に立ち寄ったおり、案内の県庁役人が「風の強い晴日ならば、此処からはるか先に与那国島の島影が見えるんですよ...」と教えてくれた、その日本最西端の島。ぼくはまだ訪れたことの無いこの島で、かつて書評やインタビューアーなど、書籍文化の最先端を担う仕事をされていた東京在住の若い女性が、馬飼いでとしてもう既に10年近く生活しているのだと言う。なんとも厳しくもあるが夢のある話だと思う。と同時に彼女の意志の強靭さにも驚かされてしまう。お前ならばどうする...などと自問自答するのだが、やはりいい歳をした気弱な「ウインビー・ジジイ」のぼくなどは、ただただ彼女の存在・行動に圧倒されるだけなのです。

【今週の番組ゲスト:ピアニストの太田寛二さん】
新譜『AT JULIAN』から
M1Minor Misharp
M2Webb City
M3Remember
M4Cottage For Sale