5月4日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報] [テイスト・オブ・ジャズ]
2019/05/03(金) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜23:00~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.460~ゴダール】

 この前「グッバイ・ゴダール」というヴィデオをレンタルショップで借りて見てみた。ゴダールとは言うまでもなくかつてぼく等の敬愛するアイドルでもあった「ヌーベルバーグ」の代表格、鬼才監督のジャン・リュック・ゴダールのこと。映画は彼と2番目のかみさん、と言っても当時はまだ大学生だったアンヌ・ビアゼムスキーとの1年間の新婚生活を、アンヌの視点から捉えたある種コミカルな恋愛ムービーとも言える趣向のもの。ただ対象がゴダールだけにだてにコミカルな内容とは言えないが、何か可笑し味がある不思議な味わいの作品だった。
 原作はアンヌ・ビアゼムスキー自身で、彼女はゴダールの「中国女」等で主演を務め、彼と別れてからも映画女優として活躍、後年は作家として名を挙げゴダールとの関わりを描いた小説も評判を呼んだはずである。この映画は価値紊乱の時代とも言えるあの騒乱の60年代後半、カルチェラタンなどで学生デモが頻発していた時代を軽やかに描いており、そこら辺も中々に面白いのだが、ゴダールも良く言われる難渋な気難し屋ではなく、恋人へ嫉妬深い面も見せるある種、市井の一知識人として描かれている等、あの時代の様相、風俗なども強く思い出され、映画の出来栄えはイマイチだが中々に興味深い作品だった。


 ところで「ヌーベルバーグ」と言っても、今の若い人達にはなんじゃそりゃ...等と言われるかも知れないが、ヌーベルバーグとは60年代に起きたその名の通り仏映画の「新しい波」の意味合い。その手法・姿勢などは以降の映画作りに画期的な影響を与えた運動体である。当時は映画(アート作品)全盛の時代で、「アートシアター」などと呼ばれる芸術作品上映映画館も新宿・渋谷などに数多く存在、多くの若い人たちを熱狂させたものだった。その若手の中心監督メンバーがジャン・リュック・ゴダールだったのだが、その彼も今年でもう88才。新作「イメージの本」が現在も公開中だし、次作は「シナリオ」に決まっており、もう撮り始めているとも言われる。フランソワ・トリフォー、アニュエス・バルダ、アラン・シャブローなど、かつてのヌーベルバーグの仲間達も次々に亡くなってしまった中、唯一孤軍奮闘している様でその意欲には本当に感嘆させられる。但しぼく個人は「中国女」以降の彼には殆ど関心が無くなってしまい、70年代半ば以降の彼の作品は殆ど見ていないのは、大いに反省すべき所。

 まあ彼の新作は別として、久しぶりに彼の作品を...と思って、家に積んどく状態だった彼のデビュー作「勝手にしやがれ」を見直すことにした。脚本はヌーベルバーグの僚友、フランソワ・トリフォーで、「シナリオ」の重要性を説くゴダールとしては、この作品はトリフォーのものとも語ってている様だが、やはり映画作りとしては画期的な作品で、カットバックやスピード感ある編集作業など、ゴダールの監督としての才能の豊かさには改めて驚かされるし、作品自体は今尚少しも新鮮さを失っていない。モダンジャズが単なるポップスから、芸術性も兼ね備えたポップ音楽として認識される様になった一つの要素に、ヌーベルバーグの監督達の作品のバックに使用されたことが大きく関わっているとぼくは考えているのだが、このゴダールのデビュー作「勝手にしやがれ」もやはりバック音楽はモダンジャズが使われており、これまでは余り印象に無かったのだが、今回見直して改めてジャズが結構効果的に使われている点に気付かされジャの効用を再認識したものだった。

 主役はぼくのご贔屓、ジャン・ポール・ベルモンドと可憐なハリウッド女優ジーン・セバーグの素敵なコンビ。やくざな犯罪者とパリ留学中のアメルカ女子大生との「勝手にしやがれ」な軽やかにスピーディーに弾け廻くる犯罪・恋愛ムービーで、その無軌道振りも当時大きな注目を集めた一因だろう。ただ当時の切迫した世相にあって何かのんびりとして場当たり的な雰囲気が強いのも面白く、ベルモンドは遊び人ながらカンヌからパリに迎かう道中で、心ならずも警官殺しを行ってしまうれっきとした犯罪者。パリでは遊びながら逃げ廻るのだがそれがちっともせっぱ詰まっておらず、警察の追及もお粗末の一言。今ならばコミックとしても成り立たない様な設定なのだが、これが不思議に生き生きとしており笑わされる。最後はジーン・セバーグが警察に彼の存在を密告し、ベルモンドは刑事に撃たれ街中を逃げ回り無残に死亡すると言う有名な長カットで終わる訳だが、その悲惨なカットも何かコミカルに写ってしまう辺りも半世紀ほどの時代の大いなる差なのか...。色々と考えさせられる映画史に残る銘品でした。ゴダールの「勝手にしやがれ」皆様も是非一度ご覧になってみては...。

【今週の番組ゲスト:クロマチックハーモニカ奏者の山下怜さん】

アルバム「Dear Darling」から
M1「When I Fall in Love」
M2「Tango pour Claude」
M3「Made in France」
M4「ひまわり」