6月1日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報]
2019/05/31(金) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜23:00~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.464~誠一ちゃん】

 今回の番組ゲストは、今最も充実して人気も高いテナーマンの川嶋哲郎。ぼくの最も好きなジャズマンの一人だが、最近の彼は大作のジャズ組曲を自身で書き上げ収録することが多い。今回取り上げる新作も、タイトルはそのものずばりの「ウオーターソング」。彼の故郷、富山県が誇る美しく澄んだ水にまつわるオリジナルナンバーを集めたもので、メインは4部構成の組曲「スロウ(流れ)」。3千メートルの高峰から流れ出て海に達する流れをジャズで描いたもので、彼のサックスが木管ジャズオーケストラをバックに力強く唄い上げられるもの。いかにも彼ならではの力作だ。


 ところで今回のコラムの主役は彼の先輩テナーマンについて。先日、ラジオNIKKEIをかなり前に辞めてしまったある後輩から電話があった。彼は技術系のかなり優秀な男で、局員時代には海外取材なども数回一緒にやった仲。それ彼が、先日テナー奏者の誠一ちゃんこと中村誠一と一緒に飲んだという。その会話の中で、自分がラジオNIKKEIにいたことを誠一ちゃんに告げると、「じゃ小西さん知ってるよね...、彼とはもう40年近い付き合いなんだ...」等と言うことになり、お互いが小西話で大分盛り上がったのだと...。まあこういう時にはいい話などはほとん無く、笑い話のネタにされたのは間違いないだろうが、「誠一さんは色々と褒めてましたよ...」などと後輩はおべんちゃらを言ってくれる。まあ実際はどうなのか...は分からないが、「それにしても誠一さんって話題も豊富だし実に面白い人ですね」と後輩は改めて感じ入った様子。

 と言うことで今回は誠一ちゃんについて少し記してみることにしてみた。彼との付き合いは実に半世紀近くで、まさに昭和の付き合いである。当然山下洋輔トリオ時代からなのだが、その頃はまだあいさつ程度の仲。その後高平哲郎くんやタモちゃん(森田一義)等に正式に紹介され、一緒に「ホワイト」で飲んだり、お互いのご贔屓でもある、「青梅雨」と言う昔のゴールデン街唯一の割烹店で一緒になったりと、面白い時間を共有していたりもした。山下トリオ時代の彼は、正に闘士の前衛プレーヤーと言った趣きと演奏振りで、今思えばいささか重カッコいいミュージシャンだった。その後山下トリオを抜けてからはその重しが取れただけに、今度はバップからスイングジャズ迄自由自在に吹き・遊び捲るお気軽テナーマンへと変身した感もあった。その余りの変貌振りに、当時のうるさ型ジャズファンからは色々言われた様だが、誠一ちゃんはそんな世評を少しも気に留めていないように、飄々と自身の好きなプレーで貫き通していた。デクスター・ゴードンとかジーン・アモンズなどにも似た、楽器を朗々と鳴らす余裕たっぷりな男臭いそのプレーは、仲々にダンディーで格好良いものでもあった。その後洗足学園音楽大学に新設されたジャズ科の主任として後輩の指導に当たり、横浜ジャズ界の実力者として君臨してもいた。だが教職も数年前に引退、今はまたバリバリとライブ活動に勤しんでいる。

 数年前に愛妻を亡くした時は一時落ち込んでもいたようだが、生来の明るいジャズ芸人でもあるだけに、この所はライブ活動も充実、何より娘の紗理ちゃん(気鋭のジャズシンガー)との共演が愉しみになっている。我が「テイスト・オブ・ジャズ」にも数十年ご無沙汰だったが、数年前にはその娘さんと共に来局、2人の共演アルバムを紹介してもらった。実に魅力的な娘さんで本場のバークリー音楽大学にも留学、シンガーとしての力量もかなりなもの。一方誠一ちゃんも彼女のことになると、親馬鹿振りを最大限に発揮、単なるおやじに変身してしまう辺りもまた面白い所。

 ハナモゲラ語の創始者でもあり、文楽など落語の大御所達の真似をさせたら天下一品と言う才人の誠一ちゃん。彼とは今年の7月末、軽井沢大賀ホールでの「軽井沢ジャズ・フェス」で一緒になる筈だが、忘れられないのは昨年秋、新宿「J」の40周年パーティーでのタモちゃんとの掛け合いでたらめブルース。彼はパーティ―の司会も担当していたが、客席のタモちゃんを呼び出し博多のホテルでの有名な最初の出会いの話をした後、でたらめの大阪弁ブルースシャウトの掛け合いを延々繰り広げ、改めてその凄みを満喫させてくれたが、この勝負、タモリよりも誠一ちゃんに軍配を挙げたくなる出来栄えだった。その様子は昨年暮れの「テイスト・オブ・ジャズ・スペシャル」でオンエアーさせてもらった。「兄さんそうでんねん、違いまんねん...」と延々と繰り返す大阪弁ブルース・フレーズの仲々に迫力充分な掛け合い。なにとぞよろしゅうお頼もうします。


【今週の番組ゲスト:テナーサックス奏者の川嶋哲郎さん】
最新作の「WATER SONG」から
M1
CRESTA PRELUDE
M2HORIZON
M3Suite -THAW- Ⅰ 雪解け」
M4WATER OF TEARS



5月25日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報]
2019/05/24(金) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜23:00~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.463~ドリス・デイ死す】 

 
ドリス・デイが亡くなってしまった。何と御年97才、ある意味天寿を全うしたと言えるだろう。ドリス・デイ何それ...等と50才代以降の人達は言うかも知れないが、いやー凄い人なのです。アメリカ最高のポップシンガーにして一世を風靡した女優。正に美空ひばりと吉永小百合を一緒にした(そう言えばこの2人も歌手&女優でもあったが...)アメリカのエンターテインメント界を代表する大看板とも言える存在。彼女に匹敵する存在としては、同じビッグバンドシンガーとしてデビューした(デイはレス・ブラウン楽団)シナトラはトミー・ドーシー楽団、2人とも後年俳優としても大成功を収めと言う点で、やはりフランク・シナトラなのだろうが、マフィアの庇護下で名前を売り出し、生涯マフィアとの縁が切れなかったシナトラとは違い、正に古き良き時代のアメリカを象徴したような良妻賢母タイプ(実際は4度の結婚歴)の良い女性でした。
 シナトラは「夜のストレンジャー」位しか大ヒットナンバーを思いつかないが、デイの方は「センチメンタル・ジャーニー」「ケ・セラ・セラ」などトップヒットナンバーも数多い。ただシナトラはジャズシンガーとして評価も高いのだが、デイは終生ポップシンガー。だが彼女の歌う代表的なスタンダード集、『デイ・バイ・デイ』『デイ・バイ・ナイト』(ともにCBS)の2枚は、そんじょそこらのジャズシンガーを標榜する歌い手達は及びもつかないほどの素晴らしさ。そのジャケットの良さもあってぼくの大いなるお気に入りのアルバムなのである。

 その上彼女の凄い所は40代後半、当時のと旦那(映画プロデューサー)が亡くなると同時に、スパッと人気女優の座を捨てて映画界から引退、TVで自身の「ドリス・デイ・ショウ」(ユーチューブにトニー・ベネットと「霧のサンフランシスコ」を歌う印象的な姿が上げられている)を持ち、それのパーソナリティーを長年務め上げ、60才代からはカリフォルニアの保養地で動物愛護の活動を中心に続けていたと聞く。
 
 1950年代から60年代、当時はハリウッド映画全盛期で,クラーク・ゲイブル、ケイリー・グランドなど錚々たる主役男優のかみさん役を務めたデイ、一方ショウビジネスのトップを占め続け、人気絶頂期にスパッとその座を降りる。並みの人間には出来ない所だが、少しの無理もなく穏やかに自身の路を決め、そして進む。女は強しである。ヒチコック監督の「知り過ぎた男」、西部劇ミュージカル「カラミティ―・ジェーン」等々。娯楽の少ない当時のぼく等~小学生から中学生などを魅了し尽くした彼女は、言うなれば美形の街のサザエさんと言った趣きで、程よく綺麗で親しみがあり微笑まし人柄、良きアメリカの象徴のような女優にして歌い手だった。再度彼女の様な良き生活人&常識人が蘇って呉れればと、今切に願っています。ドリス・デイの実際の歌声、一度は聴くべきです。和みます、癒されます。


 そしてこの原稿を仕上げた直後、また一人昭和の大女優が亡くなった。京マチ子さん、享年95才。「羅生門」「雨月物語」等々、大映映画のメインとして数多くの日本を代表する名画で大活躍した女優さんで、清楚さが売りのドリス・デイとは対照的に、妖艶な美女で当時の子供達には圧倒される様な存在だった。 合掌!

【今週の番組ゲスト:音楽評論家の青木和富さん】
今週は「ジャズ・トーク」、「楽器よもやま話」をお送りしました。
M1Swing to Bop / Charlie Christian
M2My Favorite Things / John Coltrane
M3God Bless The Child / Eric Dolphy
M4East Of The Sun / Toots Thielemans
M5Sagg Shootin' His Arrow / Jimmy Smith
M6Orchestrion / Pat Metheny
 
5月18日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報]
2019/05/17(金) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜23:00~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.462~市原ひかりのボーカル作】 

 
 平成最後のこのコラムで、ぼくは「平成とジャズ」等と言う大層なテーマで書いてみたのだが、その最後でこれからのジャズ(令和のジャズ)に結構期待している...とも書き加えた。ただ一つそこで忘れていたことがある。それはこれからのジャズの領域では、ボーカルがかなり重要な意味を持って来るのでは...と言うこと。このボーカルとは、所謂ジャズボーカルだけでなく、ラップなどもその中に含まれる訳だが、これ等広範囲のボーカルの持つポップス性が、これからのジャズにとって意味合いを増す...と言う風に思えてならない。ジャズの本来持つポップス性、エンタメ性を色濃く彩るのがボーカルだと思うからこそ、ぼくは現代のボーカルにもっと注目して欲しいと思っているのだが...。

 まあこの問題は何時かもう少し詳しく書きたいと思うが、まず今回どうしてボーカルを...と言うと、今回の番組ゲストが素敵なボーカルアルバムを出しからに他ならない。市原ひかり、若手女流トランぺッターとして実力・人気共に、抜群の存在として知られる彼女。そのひかりんの父親は人気ジャズドラマーの市原康で、我が早稲田ジャズ研の後輩でもある名手。そんな関係で彼女のことを知ったと言うよりも、デビューアルバムを出す直前に色々話していたら、市原康の娘だと分かり、いよいよ彼女への関心が高まったと言うことなのだが、それ以来新作を出すとスタジオに遊びに来てもらうことも多く、その成長振りを目の当たりにしてきた訳なのである。そんな彼女が最近はステージでボーカルを披露することも多いと聞いており、スタジオでもボーカルのアルバムでも...等と希望を語っていたのだが、それがまさか実現するとはいささか驚きでもあった。

 数年前にアメリカのジャズミュージシャンと結婚した彼女、デビュー当時の可憐な可愛らしさからピンクの髪に染めたいささかパンク風の尖がったファッションの女性に変身。その彼女に唄うことを勧めたのはあの日野ちゃん(日野皓正)だと言うが、彼のアドバイスに従って本格的にボイストレーニングなどに励み、ライブでの反響の良さ等も相俟って、担当ディレクターが今回ジャズボーカルアルバムを出すことを決めたと言う次第。これが想像以上に素晴らしいアルバムで、これからのジャズボーカルの進む方向の一指針(いささかオーバーだが...)にもなりそうな予感すらある。アルバムタイトルは『シングス&プレイズ』で、彼女も敬愛するあの唄うトランぺッター、チェット・ベイカーのものと同じ。かなりチェットを意識した所もあるが実に軽やかで明快、モダンなセンスに溢れた好ボーカル作品なのである。


 いまジャズアルバムは売れないし、余り発売もされないのだが、ことボーカルに関しては結構な賑わい。と言うのも自分探しなどと言うことで、OL達が通うジャズボーカル教室も結構お盛んな様子。そこの卒業生達でボーカリスト予備軍もかなりな数になっており、そうした女性たちが名刺代わりにアルバムを出すことも多く、結構な賑わいになっているのだ。しかしこうしたアルバムはスタンダードソングの数々を、レッスンで受けたボーカル術を踏襲、自身の思うジャズボーカルの枠組みに押し込んだものばかり。

 
 ひかりちゃんのアルバムにはそうしたくだらない枠を取り払い、自在に自身の歌いたいものを歌った...と言う、自由な感情・感覚に溢れており、極めてモダンでありジャージー、そしてポップでもあると言った具合に何とも言えない心地良さなのである。今回スタジオに来てくれた彼女、アルバムジャケットも自身のペンで自身の顔をシンプルに描き出し、選曲などにも心したなど...と、全て手作りだと嬉しそうに語ってくれたが、この自由な感性を何時までも保ち続けて欲しいもの。こうした自由なボーカルが、ジャズのこれからの未来を形作っていくのでは...と思わされる、ロサンジェルス録音の好作品でした。

【今週の番組ゲスト:ジャズトランぺッターでジャズヴォーカリストの市原ひかりさん】
先月、リーダーとして9枚目、ヴォーカリストとしては初めてのアルバム『SINGS & PLAYS』をリリースされました
M1
My Funny Valentine
M2How My Heart Sings
M3Be Bop Lives
M4But Beautiful
 


          

5月11日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報]
2019/05/10(金) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜23:00~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.461~平成から令和へのGW】

 平成から新元号の令和へと変わった、この4月末から5月初めにかけての10連休にも及ぶ長いGW、ぼくはこの間のほとんどを追分の山荘で過ごした。中2日半ほどは東京に戻り病院通いをしたのだが、どうもこうチャンジー(ロートル)になると、年齢のせいか体のそこここが時々不調になってしまう。今回は4月の頭に、突然胃から腰の辺りに痛みが走り、数日後に立川の大病院へ。すると総合内科に回され、出てきた医師がジャズでいう所のトラ(臨時雇い)のような若い医師。人柄は良さそうなのだが何とも頼りなく、こちらが質問しても上の空の感じ。1週間後再診察でも痛みは引かないので訴えると、ようやく「ではCT検査を...」と言い、それも5月の半ばにならないと...などと宣まうのだ。まあ運が悪く困った医師に遭遇...などと諦めていたのだが、痛みは引かない。そこで思い切って地元国立の病院にセカンドオピニオンを求めに行くと、直ぐにその場でCT検査を実施、一応何事も無い(結石はあるが...)との回答。再度痛みがあれば...と言うことで、GWのど真ん中に上京、診察を受ける羽目に...。だが実態は良く判らず、院長が言うには消化器関連の病気ではない様だとのこと。はなはだ心もとないのだが、消化器関連でないと聞いて一応一安心。そうなるとどうやら長い痛みも徐々に解消した感じあり。そんなこんなでGWをやり過ごした次第で、いささかトホホな事態だった。それにしても依然として不安と心配は残っており、厄介な元号跨ぎだった。
 

 まあそんな状況なので、いつもならば早朝御影用水脇から越生学園グランドなどを通って帰宅と言う1時間を超す「速歩ウオーキング」を行うのだが、今回ばかりはそんな気持ちにもなれず、もっぱら読書と音楽(ジャズ&クラシック)鑑賞に温泉三昧。上田市郊外の「ささらの湯」に、糖尿病に効く飲用温泉水を汲みに走り、小諸の布引観音(牛に惹かれて善光寺参りの観音)温泉では早朝入浴等々、追分周辺の東信の温泉を回った。どこの温泉に入っても心身の痛みが取れるようで、やはり温泉最高と言った気分。流石に草津や万座迄は足を伸ばせなかったが、どうやら不安と心配も、この温泉巡りでいささか軽減された感じだった。

 ジャズCDの方は、鑑賞と言うよりももっぱら整理の方に時間がかかり、こんなに所持していても...と思うのだが、いざ整理を始めると貧乏性と言うか思い切って処分できない、ダメな性格なのである。しかしこの整理も仲々に愉しいもので、今まで見向きもしなかったアルバムをなんとなく聞き直してみると、これが意外な拾い物...などと言うのも時々出てきて、また何とも嬉しいもの。今回面白かったのは『伝説のブギウギ・ピアノ』と言うコンピアルバム。ジャズの原型の一つともされるブギウギ(ピアノ)を30曲近く集めたアルバムで、「ブギ第1号」ともされるパイン・トップ・スミスの「パイン・トップス・ブギ」やカウ・カウ・ダベンポート、モンタナ・テイラーなど未知のピアニストばかりだが、その威勢の良さには感嘆しきりだった。まあどうしてこんなアルバムを聴こうかと思ったかと言うと、整理の途中に何気なく目にしたこのアルバム、もしかしたらカンサスシティーの大物、ジェイ・マクシャンのピアノも入っているのか...とみると、1曲あるではないか。マクシャンは先日アルバムのライナーを頼まれ必死で資料を探していた人物。それが追分の山荘に埋もれていたとは...。まあこのマクシャン(モダンジャズの開祖、チャーリー・パーカーを見い出した偉人)の1曲に惹かれ、全30曲余り(殆どが30~40年代の録音音源)を聞き通してしまったのだが、ジャズだけでなくR&Bやロックにも大きな影響を、この音楽が与えていることが良く理解できるもので、実に威勢の良い興味深いコンピ作だった。こうした掘り出し物があるから、やはりCD整理作業はやめられないのだ。

 
 読書では軽井沢、御代田の図書館で10数冊ほど借りまくり読みふけった。中でも興味深かったのは軽井沢在住の直木賞作家、藤田宣水のセミハードボイルド小説「老猿」。舞台が軽井沢の中軽の別荘地だけに、小説としての出来栄えは今一つだが、地域柄その設定にも興味深いものがありそれなりに愉しめた。もう一つの拾い物はドリアン助川の「あん」。樹木希林の映画でも評判になった(見落としてしまった)小説だが、ハンセン病と言う重いテーマを扱いながら、心温まるストーリーに仕上げており、実に後味の良い泣ける小説だった。昔は児童ものの出版社と言うイメージのポプラ社だったが、ここ数年様子一変といった感じで、意欲的な作品を次々世に送り出しており、「あん」はその代表作の一つ。是非ヴィデオで映画の方も見ようと思った程の逸品だった。音楽書では菊池成孔&大谷能生コンビによる「アフロ・ディズニー」が予想通り面白かった。中々に難しい内容の大学でのジャズ講義録だが、流石理論家の2人だけに興味深いもの。菊池はサックス吹きとしては余りその力量は評価出来ないのだが(自身のバンドや山下洋輔などとも共演)、こうしたジャズ理論書や講義本では、他に追随を許さない素晴らしさ。理論と実際、そしてその乖離、そこら辺が世の中とは中々に面白いもの。あの文春から出された一冊で、難しいが一読に値するジャズ本です。

【今週の番組ゲスト:ジャズヴァイオリニストの里見紀子さん】
1stアルバム「Project-N
2ndアルバム「A Love Supreme」から

M1A Love Supreme, Part 1 承認」
M2A Love Supreme, Part 2決意」
M3Red Light, Green Light〜だるまさんがころんだ〜」
M4Danny Boy


5月4日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報]
2019/05/03(金) 19:00
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜23:00~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.460~ゴダール】

 この前「グッバイ・ゴダール」というヴィデオをレンタルショップで借りて見てみた。ゴダールとは言うまでもなくかつてぼく等の敬愛するアイドルでもあった「ヌーベルバーグ」の代表格、鬼才監督のジャン・リュック・ゴダールのこと。映画は彼と2番目のかみさん、と言っても当時はまだ大学生だったアンヌ・ビアゼムスキーとの1年間の新婚生活を、アンヌの視点から捉えたある種コミカルな恋愛ムービーとも言える趣向のもの。ただ対象がゴダールだけにだてにコミカルな内容とは言えないが、何か可笑し味がある不思議な味わいの作品だった。
 原作はアンヌ・ビアゼムスキー自身で、彼女はゴダールの「中国女」等で主演を務め、彼と別れてからも映画女優として活躍、後年は作家として名を挙げゴダールとの関わりを描いた小説も評判を呼んだはずである。この映画は価値紊乱の時代とも言えるあの騒乱の60年代後半、カルチェラタンなどで学生デモが頻発していた時代を軽やかに描いており、そこら辺も中々に面白いのだが、ゴダールも良く言われる難渋な気難し屋ではなく、恋人へ嫉妬深い面も見せるある種、市井の一知識人として描かれている等、あの時代の様相、風俗なども強く思い出され、映画の出来栄えはイマイチだが中々に興味深い作品だった。


 ところで「ヌーベルバーグ」と言っても、今の若い人達にはなんじゃそりゃ...等と言われるかも知れないが、ヌーベルバーグとは60年代に起きたその名の通り仏映画の「新しい波」の意味合い。その手法・姿勢などは以降の映画作りに画期的な影響を与えた運動体である。当時は映画(アート作品)全盛の時代で、「アートシアター」などと呼ばれる芸術作品上映映画館も新宿・渋谷などに数多く存在、多くの若い人たちを熱狂させたものだった。その若手の中心監督メンバーがジャン・リュック・ゴダールだったのだが、その彼も今年でもう88才。新作「イメージの本」が現在も公開中だし、次作は「シナリオ」に決まっており、もう撮り始めているとも言われる。フランソワ・トリフォー、アニュエス・バルダ、アラン・シャブローなど、かつてのヌーベルバーグの仲間達も次々に亡くなってしまった中、唯一孤軍奮闘している様でその意欲には本当に感嘆させられる。但しぼく個人は「中国女」以降の彼には殆ど関心が無くなってしまい、70年代半ば以降の彼の作品は殆ど見ていないのは、大いに反省すべき所。

 まあ彼の新作は別として、久しぶりに彼の作品を...と思って、家に積んどく状態だった彼のデビュー作「勝手にしやがれ」を見直すことにした。脚本はヌーベルバーグの僚友、フランソワ・トリフォーで、「シナリオ」の重要性を説くゴダールとしては、この作品はトリフォーのものとも語ってている様だが、やはり映画作りとしては画期的な作品で、カットバックやスピード感ある編集作業など、ゴダールの監督としての才能の豊かさには改めて驚かされるし、作品自体は今尚少しも新鮮さを失っていない。モダンジャズが単なるポップスから、芸術性も兼ね備えたポップ音楽として認識される様になった一つの要素に、ヌーベルバーグの監督達の作品のバックに使用されたことが大きく関わっているとぼくは考えているのだが、このゴダールのデビュー作「勝手にしやがれ」もやはりバック音楽はモダンジャズが使われており、これまでは余り印象に無かったのだが、今回見直して改めてジャズが結構効果的に使われている点に気付かされジャの効用を再認識したものだった。

 主役はぼくのご贔屓、ジャン・ポール・ベルモンドと可憐なハリウッド女優ジーン・セバーグの素敵なコンビ。やくざな犯罪者とパリ留学中のアメルカ女子大生との「勝手にしやがれ」な軽やかにスピーディーに弾け廻くる犯罪・恋愛ムービーで、その無軌道振りも当時大きな注目を集めた一因だろう。ただ当時の切迫した世相にあって何かのんびりとして場当たり的な雰囲気が強いのも面白く、ベルモンドは遊び人ながらカンヌからパリに迎かう道中で、心ならずも警官殺しを行ってしまうれっきとした犯罪者。パリでは遊びながら逃げ廻るのだがそれがちっともせっぱ詰まっておらず、警察の追及もお粗末の一言。今ならばコミックとしても成り立たない様な設定なのだが、これが不思議に生き生きとしており笑わされる。最後はジーン・セバーグが警察に彼の存在を密告し、ベルモンドは刑事に撃たれ街中を逃げ回り無残に死亡すると言う有名な長カットで終わる訳だが、その悲惨なカットも何かコミカルに写ってしまう辺りも半世紀ほどの時代の大いなる差なのか...。色々と考えさせられる映画史に残る銘品でした。ゴダールの「勝手にしやがれ」皆様も是非一度ご覧になってみては...。

【今週の番組ゲスト:クロマチックハーモニカ奏者の山下怜さん】

アルバム「Dear Darling」から
M1「When I Fall in Love」
M2「Tango pour Claude」
M3「Made in France」
M4「ひまわり」