11月4日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報] [テイスト・オブ・ジャズ]
2017/11/03(金) 19:00
テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.382~ハリー・ボッシュ】

 翻訳小説の分野でハリーと言ったら、今ならばまずはハリー・ポッターなのだろうが、今回のハリーはぼくの好きなハードボイルド小説の主人公ハリー・ボッシュのこと。そのハリーの本名はヒエロニムスで、あの有名なオランダ幻想画家のヒエロニムス・ボッシュに因んで母親が付けたもの。その母親は娼婦、そして父親は不明と言う(大富豪の落とし種と明かされる)のだから、かなり凄まじい境遇で育ったと言う訳。その彼が今はLAの癖のある敏腕刑事だと言うから結構な驚きでもある。

 
アメリカを代表するハードボイルド作家、マイケル・コナリーが創作したこの刑事ものハードボイルド小説は、現在までに本国で17冊ほど出されており、日本でもかなりの数が翻訳されている人気シリーズ。コナリーには映画にもなったリンカーン弁護士シリーズなどもあるが、最大の売りはこのハリー・ボッシュシリーズ。ドン・ウイズロー、デニス・レヘイン、ローレンス・ブロック、そして探偵スペンサーシリーズの故ロバート・B・パーカーなど、これまでぼくが紹介して来たハードボイルド作家達と並び、全米で高い人気を誇る彼だが、ぼくは余り刑事ものが好みでは無いので、このハリー・ボッシュシリーズも何冊か買い求めてはいても(上下2巻ものが多い)、典型的な積読の対象でこれまで実際に手にしたことも無かった。それがある知り合いから、ボッシュは刑事ながらもかなりなジャズフリーク、ジャズを聴いている場面も頻繁に登場するから早く読むべきだと言われ、追分の山荘に捨て置かれていた、「暗く聖なる夜(03年講談社文庫)」を読み始めたらば、これが噂通り圧倒的に面白い。幸運なことにこの本でのボッシュはLA警察を辞め、私立探偵の免許を持ちながらかつての自身の未解決事件を追う役割で、単なる警察ものハードボイルド小説でない所もぼくの趣向にピッタリ。その上ジャズ好きが昂じたボッシュは、シュガー・レイ・マックと言う往年の名ジャズサックスプレーヤー(今は養老院入りしている)に、実際にサックスの教えを受けると言うおまけまで付いている。ぼくやジャズファンには応えられない内容。あのサッチモが唄う名曲「この素晴らしき世界」が、重要な場面で印象的に流れ、アート・ペッパーの諸作を自宅で酒を飲みながら聴いたり、LAの有名ジャズクラブ「ベイクドポテト」でデイトや食事をしたりと、スリルある物語展開の間を濃厚なジャズ色が埋める。幼い頃に孤児になったボッシュが、ジャズに目覚めたのはなんと15才の時で、カーラジオから流れるチャーリー・パーカーの演奏を耳にして以来とのこと。それだけにアルトサックス好きで、それが昂じて実際に演奏を習うところまで行ってしまうと言うのだから、もう素敵の一言。その上かつての自身担当の未解決事件を追うボッシュ。ハードボイルド小説の定石「卑しい街を歩き、真実を探求する」。この執念もまた並大抵のものでは無い。

 
ただ残念なことには、私立探偵としての彼の役割はこの次作『天使と罪の街』(04年)までの2作のみで、以降はまたLA警察に戻り殺人課の刑事として働くと言う、ぼくには余り好ましからざる展開となってしまう。作者コナリーは言う「もしハリーを探偵として使い続け、殺人事件を次々解決して行ったら、シリーズの信憑性を欠いてしまうだろうと分かったんだ。それだからハリーにバッチを返すことにしたんだ」と...。この後書きを読んだ時、ハリー・ボッシュ・シリーズにかなり興ざめしてしまったのも事実だが、私立探偵ボッシュが活躍する2作は大好きで素晴らしい。今日本だけでなく世界中が右傾化し住みにくくなっている時代、国や大組織に個人が押しつぶされ生きにくい、そんな悪しき時代を敏感に写し取る様な警察小説の大流行(日本もそうだが...)。この時代をどうリベラリスト=真の自由人として生き抜いていくのか...。ハリー・ボッシュも私立探偵として様々な軋轢や制約のなかもう少し頑張って欲しかったのだが、残念なことである。そこら辺にも象徴されているように(私立探偵ハードボイルド物の衰退)、ぼくらオールドボーイもこの悪しき時代に押しつぶされそうになっている様にも思えてならない。ハードボイルド小説を読み、ジャズを聴きながら、しばしばそんなことを考えている...。 
【今週の番組ゲスト:音楽評論家の村井康司さん/シンコーミュージック・エンタテイメント書籍編集者の播磨秀史】
シンコーミュージックから出版された村井さんの著作『あなたの聴き方を変えるジャズ史』をご紹介頂きました。
M1Maple Leaf Rag / ガンサー・シュラーとニューイングランド コンサバトリー ラグタイム アンサンブル」
M2Black Beauty / デューク・エリントン」
M3Rocker / マイルス・デイビス9重奏団」
M4Corcovado / マイルス・デイビス ギル・エバンス」
M5Sky Blue / マリア・シュナイダー ジャズオーケストラ」