7月1日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [「テイスト・オブ・ジャズ」プログラム情報] [テイスト・オブ・ジャズ]
2017/06/30(金) 19:00

テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.364~ブルーに生まれて】

 見逃してしまい残念な思いをしていたジャズフィルム「ブルーに生まれついて」が、今回ヴィデオ化されたので早速鑑賞することにした。この映画が公開された後に今度は帝王マイルスを扱ったジャズ映画も登場~マイルス・フリークの俳優ドン・チールドが監督・主演したもの、時ならぬプチ・ジャズフィルム・ルネッサンスと言う感じもあったのだが、その公開時には残念なことに見られなかった。この映画の主人公はブルーと言う言葉に象徴されているように、あの稀代のジャズ界の人気者、オランダでのホテルでの原因不明な転落死でその59才の生を閉じてしまったトランぺッター&シンガーのチェット・ベイカー。

 マイルスにチェット、ジャズ人気を2分するようなこの黒・白を代表するトランぺッターを主人公にした映画が、ほぼ同時に登場と言う稀有な出来事が実際に起きた訳だが、映画の出来はこのブルーの方がはるかに優れている...と言うのは衆目の一致するところ。マイルス映画は主役がドン・チールドだったのに対し、チェットの方はイーサン・ホーク。この役者の格の違いで、ある程度映画の出来栄えも分かってしまうのだが、実際にイーサンの演じたチェット・ベイカーは、各映画祭でも絶賛されるほどの素晴らしさでぼくも堪能させてもらった。当て振りとは言え画面でのトランペットプレーも相当に練習したことが良く分かる見事さ。この映画をぼくはイーサン自身が監督したものと誤解していたのだが、実際の監督はカナダ人のロバート・バドロー。まだ余り知られていない若い人だが、映画のタイトルでチェットの代名詞にもなっているブルーな色調をベースに画面を構築、スタジオ風景などもあの50年代後半の懐かしいブルーな色調でまとめられており、それだけで愛おしい気分になってしまう。

 さてそのチェットだが、死後既に30年近く経つのに相変わらずその人気は衰えない。度々彼のアルバムは再発され、それでもかなり売れ続けているようだ。それはトランぺッターとしてだけでなく、彼のブルーな歌声もその人気の要因(特に女性ファン)になっている筈なのだが、映画でもイーサン自身がチェットの持ち歌を披露~その中には当然タイトルの「ボーン・トゥー・ビー・ブルー(ブルーに生まれついて)」も含まれているが、その枯れた歌声も中々に素晴らしいもの。何よりこの映画の素敵な所は主役のイーサンそして若い監督も、チェットに心底惚れ込んでいる感じが画面から滲み出ている点だろう。その人気絶好調の折にはあの夭逝した伝説の人気俳優、ジェームス・ディーンのジャズ版とも呼ばれた美少年だった彼。麻薬の為に心身はボロボロで、原因不明の転落死も麻薬売買のトラブル...などとも噂されるほど生涯麻薬との関係は断ち切れず、チェット=麻薬(ドープ)とも言われるほどだった。

 映画は人気絶頂だった彼が麻薬の為に刑務所入りした後、失意のどん底にあった50年代後半を扱っており、当然麻薬の問題が大きなテーマの一つにもなっている。薬の売人に金銭問題で殴られ顎と歯を痛め再起不能とも言われた彼が、ある黒人女性(これは実在しない)の献身的愛でどうにかカムバックするのだが、最後はこの女性も彼とは離れ、失意の彼はヨーロッパに旅立つことになる...と言う、ある意味ラブストーリーなのだが、マイルスやディジー・ガレスピーと言ったジャズトランペッター達も画面に登場、彼をスターに仕上げた「ワールド・パシフィック」レコードの社長なども重要な役割を担い、愛人女性だけが架空と言う、ジャズフィルムでありつつラブファンタジーでもある訳だが、かれがアイダホの故郷に一時帰郷しその大平原の中でトランペットを学びなおす場面なども、田舎者チェットの峻厳とも言える孤独な姿が活写され、またまた愛おしい気持ちに浸らせられる。

 
チェットの自伝映画としては、実際のドキュメンタリーフィルム~有名なファッションフォトグラファー、ブルース・ウエーバーが撮った「レット・ゲット・ロスト」があり、これは晩年の欧州在住時期に彼やその愛人たちにインタビューして作り上げられたもの。アカデミー賞のドキュメンタリー部門の候補作にもなった秀作だが、その中での彼は年令の割にしわだらけで歯もボロボロの全くの老骨の人。およそかつての美青年振りは窺い知れ無い落ちぶれ具合なのだが、反面なんとも言えない味わいと含蓄深さを持った顔付きで、これはこれでまた魅力的だなーと思わせてくれた。その彼の未だ若々しい苦悩の時期を扱ったこの不思議なラブファンタジー=ジャズフィルム。見ればチェット・ベイカーと言う稀有な感性の男に惚れこんでしまうこと間違いなしで、仲々のお勧め良品です。
【今週の番組ゲスト:ピアニストの中村真(まこと)さん、ドラマーの大村亘(こう)さん】
中村真トリオの新作『Makoto Nakamura Trio
』から
M1Stablemates
M2Isn't it romantic
M3Triste
M4Smile