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テイスト・オブ・ジャズ

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テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週木曜22:30~23:00(本放送)と金曜18:30~19:00(再放送)で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.594~J・Pベルモンド~】

 J・P(ジャン=ポール)ベルモンドが亡くなってしまった。享年88才。アラン・ドロンと並ぶフランスを代表する俳優で、ぼくの大いなるご贔屓スターだった。欧州映画の新潮流~一時代を画したヌーベル・バーグを代表する監督、ジャン・リュック・ゴダールの「勝手にしやがれ」「気狂いピエロ」などで主役を務め、フランスの顔とも謳われた人気俳優だった。アラン・ドロンは今なお日本でもその名前が知られているが、ベルモンドの名前は、もう今では若い人達はほとんど知らないと思う。大変に残念なことである。

 ゴダールなど一連のヌーベルバーグ作品に出演、個性的な演技派としても売り出していた彼だが、ゴダールと演出上の問題(台本がなくアドリブ演出中心)などで喧嘩別れ、以降は「リオの男」などの男シリーズのエンタメ作品で人気を挙げ、親しまれるようになった。ドロンが典型的な2枚目だったのに対し、ベルモンドは愛嬌ある顔つき、個性派役者として人気を高め、容姿や人気など全ての面で2人は良きライバルで、彼の死にドロンも哀悼の意を捧げていた。

 ベルモンドの出世作ともなった「勝手にしやがれ」。先日彼の死を受けNHKBSで放送されていたが、その邦題も中々に魅力的だし、まさに勝手にしやがれ...と言うことで奔放に生きて行く若き彼の姿、ラストは警官に撃たれてよろよろ街をさ迷い死んでいく姿、今なおその演技、ハンドカメラによる映像美は鮮烈なものだった。音楽も全編モダンジャズで、あの頃のフランス映画にはジャズが使われることも多く、その代表作の一つでもある。これによりベルモンド=モダンジャズと言うイメージ付けにも成功していた。

 ぼくが彼の作品の中で好きなのは、ゴダールの最高傑作だと思う「気狂いピエロ」、そしてもう一作「雨のしのび合い」。後者は何か安っぽい恋愛映画風タイトルだが、フランスを代表する女流作家、マルガリット・デュラス小説「モデラート・カンタビーレ」を映画化したもの。監督はイギリスのシェークスピア作品の演出家として有名なピーター・ブルックで、主役はジャンヌ・モローが務め、彼女がフランス南部の大都市の大富豪婦人を演じる。その彼女が強く惹かれるのが、夫の経営する工場の若い労働者。実際の逢引きシーンなどは恋愛話ではあるが、夫人の心の揺れの描き方も素晴らしく、何とも官能的な作品に仕上がっており、ベルモンドも印象的な工場労働者役を演じている。

 ドロンが貴族とか高貴な役が合うのに対し、ベルモンドは労働者やチンピラなどの役も多かったが、実際の境遇は正反対でドロンが貧しい家庭育ちなのに対し、ベルモンドは彫刻家と画家と言う家庭の出身で典型的なボンボン育ち。労働者やチンピラなどを演じても、どこかに家柄の良さなどが滲み出ている所がその魅力で、後年のヒットシリーズ「リオの男」などのコミカルで行動的な役でも、その育ちの良さがプラスされていた。

 ところで35年ほど前、ドロンと一緒に仕事をしたことがある。ファッションショー関連の仕事もしていた局のある先輩に頼まれ、京都の呉服屋主催の新潟各地で行う呉服ショーツアーの演出を2か月半程の間手伝ったのだが、その呉服屋がドロン監修名義の呉服を売り出し、最後のショーが新潟のホテルでドロンもゲスト登場するというものだった。1月から3月位まで冬の真っ盛りの厳寒の中、新潟県内各地を転々とした最後、最高級のお部屋にお泊りの大役者ドロンは、ショーのフィナーレに重々しい表情で登場、その彼を誘導する役もぼくの担当だったが、ハンサムながら結構気さくな所もある人だった。確か新潟市長など新潟の要人やその令婦人など、数多くの有名人が参加したこのショー、ドロンが登場し軽く手を挙げるだけで皆んな大満足で大拍手。さすが世界一の美男ぶりだった。そのとき彼は「ご苦労さん...」と一言ねぎらいを呉れたはずなのだが、フランス語の分からないぼくは曖昧に返礼しただけ...、今ではある意味もったいないことをしたと思っている。ベルモンドはもういなくなってしまったが、その彼は未だ健在のようである。時の経つのは思いのほか早いものだ。

【今週の番組ゲスト:ピアニスト立石一海(かずみ)さん】
新譜『Peace of Mind ~スタジオジブリ・ミーツ・ジャズ・ベスト~』より
M1「海の見える街(魔女の宅急便)」
M2「となりのトトロ(となりのトトロ)」
M3「人生のメリーゴーランド(ハウルの動く城)」
M4「いのちの記憶(かぐや姫の物語)」

 

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