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テイスト・オブ・ジャズ

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テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.373~ジャズ映画「ロウ・ダウン」】

 ジャズプレーヤーあるいはシンガーをモデルにした映画、いわゆる「ジャズフィルム」はどうも今イチ面白味に欠ける物が多い感じがある。この手のものとしては、前にこのコラムでも取り上げた、チェット・ベイカーを描いた『ブルーに生まれて』、帝王マイルスの沈黙時代を取り上げた『マイルス・アヘッド』などが最近公開された。『ブルーに...』の方はかなりな佳品だったが、マイルスの方は愚作、そしてこの手の作品の代表格が、ジャズ好きの巨匠、クリント・イーストウッド監督による、天才チャーリー・パーカーの伝記作品『バード』と言うことになるが、これもイーストウッドらしからぬ余り感心しない出来栄えだった。どうもこうした作品、取り上げる対象に監督達の思い入れが強すぎたり、演じる役者の演奏風景などにもいささか熱が欠けているなど、様々な状況にもよるが余り芳しいものがない。そんな中ある友人から、あの伝説のピアニスト、ジョー・オーバニーを描いた映画があるそうで、これが結構良いらしいよ...と言う話を聞き、興味を掻き立てられたのが、その実態は分からなかった。それが先日国立にある行きつけのヴィデオ屋を覗くと、伝説のジャズピアニストを描いた作品...と惹句にあり、それが噂のジャズフィルムに違いないと確信、早速借り受け見てみることにした。4
年ほど前の作品で、日本未公開のこのジャズ映画のタイトルは『ロウ・ダウン』。

 「
ロウ・ダウン」とは俗語で実情と言った意味合いで、伝説のピアニスト、オーバニーの実情を描く...と言った感じなのかと思っていたら、これには原作があり著者は娘で作家のエイミー・オーバニーと言うことが資料から分かった。70年代初めその才能が再び認められつつあった時代の彼を描いたこの映画も、娘エイミーから見た父親、ジョーの姿が活写されており、このロサンジェルスのハイスクールに通う娘を演じるのが、美形ファニング姉妹の妹の方、エル・ファニング。このヒロインの彼女が実に可愛らしく素晴らしく、不安と期待が入り交じるこのアドレセンス期の少女の実情を見事に演じ切る。これだけでこのジャズフィルムは成功と思わせるほなのだが、父親のジョーを演じる個性派として結構注目を浴びている、ジョン・ホークス(今回初めて知ったがい渋くいい役者)も、写真で見る実際のジョー・オーバニーにも良く似ており、この繊細で天才肌のバップピアニストの心情・実情を描き出す。そしてもう一人、ジョーの母親を演じるのが名優グレン・クローズ。ジャンキーで薬を止めることが出来ず、収容所と自宅を行き来する(人生の半分は収容所にいたと自身で語っている)彼を励まし叱り愛おしみ、可愛い孫の世話も一人で引き受けると言う難しい役柄をこなしている。こうしたメインの役者達が全員実力派揃いだし、また余りクラブなどでの演奏風景も出て来ない~ジャズを前面に打ち出さない~のも好感が持てる。

 
ところでバップの興隆期、始祖チャーリー・パーカーともしばしば共演(パーカーの最初のピアニストとも言われた)、パーカーもその才能を評価していた白人ピアニスト、ジョー・オーバニー。彼が何故、伝説のピアニストと言われるかと言うと、パーカー共演時の素晴らしさでジャズ仲間達の口コミで評判を呼ぶが、実際にその演奏はアルバムに収められておらず、57年に吹き込んだ唯一のリーダー作も、リハーサルを収録したプライベート盤だと言うことで、実態の分からないピアニストとして幻度が高まったと言う訳。それだけにファンの関心も高くなる訳で、この映画の舞台となる70年代初め頃からカンバックも果たし、再び彼に注目が集まり以降88年に63才で亡くなるまで、10作近いアルバムを吹き込み、それらはどれもバップ魂の横溢した、切れ味抜群の素晴らしいものだった。しかしその生活は薬に溺れた、なんとも貧しく寂しく自堕落なもの。そんな彼を敬愛し常に行動を共にするいじらしい迄の娘エイミーの姿。離婚し別に暮らす母親もジャンキーで娼婦まがいの生活、エイミーに向かって"あんたは実の娘ではない"とまで言い切る。そんな悲惨な中にも、常に前向きに行動する彼女の目を通してみた天才ピアニストの実情。どうも一般の映画ファンは単なるジャンキー映画としか見ていないようで、「暗いだけで面白くない」と評価は良くないようだが、心に沁みる素晴らしい作品と思う。画面のトーンも暗く沈んだものだが、そこはかとない哀愁が感じられ胸に迫る。異色のジャズフィルムで一見の価値ありの作品だと思います。

【今週の番組ゲスト:ジャズテナーサックス奏者の中村誠一さん、ジャズボーカリストの紗理さん、父娘のお二人】
M1「小さな花 / 中村誠一」
M2
How Deep Is Your Love / 紗理」
M3
Joy Spring / 紗理&中村誠一」
M4
I've Got You Under My Skin / 中村誠一&吉岡秀晃」

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