8月18日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [テイスト・オブ・ジャズ]
2018/08/17(金) 19:00 番組スタッフ
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜22:30~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.423~18追分通信Ⅳ 音楽関連書】

  追分に居ると野生動物に出くわすことがたまにある。かなり頻繁に出くわすのが日頃からその鳴き声をよく耳にする雉。「ケーン・ケーン...」と鋭い鳴き声は印象的だが時々早朝などは林から出てきて散歩したりしており、犬の散歩の前を横切ったりするのでヒヤヒヤものだがどうにか共生しているようでホッとする。
 ひところ軽井沢のメイン旧軽井沢では、ごみ集積場がクマに荒らされると言ったニュースが聞かれたが最近はあまり耳にしない。これもクマと人間の棲み分けがどうやら上手くいっているのかも知れないし、うちの屋根で寝ていたこともある猿軍団もこの所とんと見かけなくなった。ぼくが出くわした動物では鹿とイノシシが印象深く、どちらも夜中の国道沿いでのこと。鹿の方は夜中小諸の国道を横切ろうとして上手く行かず、一方イノシシはウリ坊とも呼べそうな子供のイノシシが2頭。軽井沢駅の駐車場の近くをうろうろ、真夜中だったので車はなく、かなり我が物顔で2頭で闊歩していた。人間と野生動物の棲み分けは実に難しい問題だし、山荘に居ると考えさせられる所も多い。


 ところで山荘生活ではこれといってやることも無い時は、音楽(ジャズ)を聴くと言うよりももっぱら読書と言う感じになってしまう。当然大好きな和洋の私立探偵の活躍するハードボイルドものがメインなのだが、同時に音楽書も手にすることも少なくない。番組にも出演頂いたことのあるジャズライターの村井康司氏の『ジャズ100の扉』、レコードバイヤーにして選曲家など多彩な顔を持つ山本秀樹氏の『クワイエット・コーナー』など、今回も興味深い音楽本を幾つか選んで読んだが、この両方ともアルバム紹介本。その視点のユニークさ、センスの素晴らしさなど、それぞれに興味深いものだったし教えられることも多々あった。


 しかし最も面白かったのは音楽を生業にしている人のものではなく、それ以外の分野の人の書いた音楽関連本だった。その一つが直木賞作家で無類のロック好き、奥田英朗の『田舎でロックンロール』。彼は岐阜市の隣の各務原と言う田舎町育ちで、この町の中学生時代にロックに目覚め、田舎町で孤独にロック音楽を聴き、岐阜の高校時代にようやくロック仲間に出会うと言った、70年代ロック青春エッセイ。ビートルズやストーンズはもちろん、ハードロックからプログレ、ウエストコーストロック、そして遂にジョニー・ミッチェル、ドナルド・フェイゲンにまで行き着くと言ったそのロック修行過程と、専門家でない切り口も愉しく面白い。その上彼は演奏はやらず(悪友に誘われるが...)聞く方だけでそこら辺も面白い所。この各務ヶ原と言う町、ぼくもかつて取材で2回ほど訪れたことがあるが確かに何にもない田舎町。ここの中学で誰にも理解されずロックを一人でいきがりながら孤独に愉しむ。このいきがった悦楽が何とも言えず微笑ましくも面白い。


 そしてもう一冊、こちらは素晴らしいインタビュー集なのだが、ドキュメンタリー作家、沢木耕太郎による『流星ひとつ』。流星とはあの数年前に自死してしまった70年代のアイコンとも言える天才演歌歌手、藤圭子のこと。藤圭子と言っても今の若い人は何それ...と言った感じで、その存在を知らない歌手かも知れないが、あの宇多田ヒカルのお母さんとしては名前を聞いたことが...と言った忘れられた存在だろう。当時はぼくの大好きな「圭子の夢は夜開く」「女のブルース」などの大ヒットを飛ばし、演歌の新星として一時代を築いた後、あの安室奈美恵のように突如引退宣言をしてスパッと表舞台から姿を消してしまった伝説の人である。その彼女が世間を驚かした引退宣言をした直後の28才の時、沢木がウオッカ(火酒)を片手にインタビューしたもので、全編会話だけで構成された特異なインタビュー集。元々は「インタビュー」と言うタイトルで出そうと沢木氏は考えていたのだと言う。しかし諸々の事情などもありこの秀逸なインタビュー集は世に出されることも無く時は過ぎる。しかし数年前偶然TVで藤圭子の自死(高層マンションから飛び降り)のニュースを見て、再度圭子28才の時のこのインタビュー集を読み直し、「輝くような精神の持ち主がこの世に存在していたこと」を改めて再認識、この本の出版を考え、類い稀なる演歌歌手、藤圭子の真実が浮き彫りにされた会話のみによるこのインタビュー集が、日の目を見ることになったと言う次第。
 娘のヒカルは母親の死にあたって「誤解されることの多い彼女でしたが、正義感に溢れた誰よりもかわいらしい人でした。母の娘であることを誇りに思います」と語っていたが、沢木も書く「あの水晶のように硬質で透明な精神」を持った歌い手などほとんどいないと...。娘へ彼女の真実を知らせたいと言う意図もあったとも言えそうなこの本。昨今のアイドル歌手などには望むべくもない(幼いころの過酷な生活などその生きざまも凄いもの)、その歌に賭ける硬質で透明な視線。感涙間違いなしのインタビュー集で、世に数多い馬鹿げたアイドルおたく達にも是非読ませたい一冊で、だらけたぼくの山荘生活に一つの喝を入れられた心持ちにもなりました。


【今週の番組ゲスト:第17回目東京ジャズプロデューサーの山中宏之さんと前川樹里さん】
M1「いつかどこか / CORNELIUS
M2Resting Warrior /  R+R=NOW
M3Can't Dance  / John Scofield Combo66
M4My Dear Life  / 渡辺貞夫」


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