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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日22:00-22:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.213~あるベーシストの死~】

 7月の半ば(正確には12日)の新聞各紙は、あるジャズ・ベーシストの死亡記事を載せていた。チャーリー・ヘイデン、享年76才。かなり長くポリオ症候群を患っていたとその記事にはあったが、子供の頃ポリオに感染し60才の頃再発症したのではと思われるが、つい最近まで第一線で頑張っていた感も強い。強靭なベーシストで、ジャズ・マスター賞やグラミー賞などを獲得した当代きってのベーシストで、ぼくも大好きな人だった。グラミーを取った『ミズーリーの空高く』など彼の作品はどれも完成度が高く、何時も我々の期待を裏切らない素敵な作品をプレゼントしてくれた。ミズーリーとは彼の出身地ミズーリー州のことで、中西部出身だけにヤンキー魂とも言える、カントリー~フォーキーな要素もその音楽の底部には流れていた。

 ところで彼の死亡記事にはどれも、稀代の問題児、オーネット・コールマンのグループにかつて参加していたとあったが、一時はほとんど全てのジャズ演奏家から敵対視された鬼才、コールマンのような前衛派から、オーソドックスなプレーヤーや普通のシンガーのバック迄、何でもこなせる万能型のベーシストだった。

 ただぼくが彼に注目していたのは、音楽に対峙する彼の姿勢だった。最近は音楽家は音楽だけをやっていればいいのであって、政治や社会問題に積極参加する様な輩はバカだし危険な人物だ、などと言う風潮すら生まれつつあるように見えるのだが、ヘイデンはそうした傾向に既に大分以前から、はっきり「ノー」と言い続けて来た稀有なミュージシャンだった。彼がかつて組織した音楽集団は「リベレーション・ミュージック・アンサンブル」と言い、スペイン市民戦争時代に独裁者フランコと戦うためにアメリカからスペインに渡り、究極の自由獲得を目指した自由義勇軍(あの作家のヘミングウエイなどもいた)に因んだもので、その作品は各地の抵抗歌や少数民族の歌などをジャズに仕立て直したものだった。彼の目は常に抑圧されたもの、虐げられた者達に向けられていたし、究極の自由主義、平和主義者でその音楽=ジャズは声高ではないが静かにそれを訴え続けていた(時にリベレーション・ミュージックのように感情の高ぶりを見せることもあったが...)。こんなミュージシャン今の日本にはまずいない。積極的平和主義等とのたまいながら着々と破壊への道を突き進みつつある日本。ジャズは愉しむためだけにあればそれで良し...とされる今の日本では、ベーシストにして主義者、ヘイデンの生と死の意味も顧みられることも無いのかも知れないが、大変に残念なことだし寂しいことでもある。

【今週の番組ゲスト】バンガローの大村亘さん、佐藤浩一さん、池尻洋史さん。昨年リリースされたセカンドアルバム『パストライフ』から4曲お送りします。
M1『上昇気流』
M2『Soundrop』
M3『Postcard To Your Memory』
M4『Past Life』

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