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テイスト・オブ・ジャズ

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テイスト・オブ・ジャズ」は、毎週木曜22:30~23:00(本放送)と金曜18:30~19:00(再放送)で放送中。番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.575~グリーンブック】

 以前から見ようと思っていた映画「グリーンブック」を、ようやくDVDで鑑賞することが出来た。封切りを見逃しDVD化されたニュースを知り、レンタルヴィデオ屋に数回足を運んだのだが、在庫は数本あってもぼくが訪れると不思議とどれもレンタル中。もう縁がないのかなーと思っていたが念願叶い、ようやく借り出すことが出来た。18年封切りの作品で、ある種シリアスながらも監督がコメディーを得意としているだけに、何かコミカルな要素も漂う好作品。アカデミー賞でも数部門で賞取りを果たした作品だけに、多くの人が借りたがったのだろう、漸くレンタルで手元に届いたのだが。やはり期待通りの作品だった。

 この作品はある種の音楽映画=ジャズ作品でもあり、未だ人種差別激しい60年代の社会を扱う、シリアスな社会派作品でもあるのだが、そこは前記したように監督がコメディー畑の才人と言うところがミソで、品の良い音楽エンタメ作品に仕上がっている。タイトルの「グリーンブック」とは、黒人(かつてはニグロと言った蔑称で呼ばれていた、アフリカンアメリカン人種)が、差別激しいアメリカ南部の諸州を旅する時に必須の旅行案内書のこと。このグリーンブックを携えて、黒人専用の安モーテルや食堂などを探し、ディープサウスの諸州を演奏旅行した黒人ピアニストとその護衛役(用心棒)兼運転手との3週間にわたるツアーの模様を面白く取り上げた、実話に基づく音楽映画という訳。
 主役はこの用心棒とピアニストで、用心棒にはぼくのお気に入りの一人でもある、渋い役柄の多いヴィゴ・モーテセン。ピアニストは余り名前の知られていない役者だが、こちらもいい味わいを醸し出しており中々の好演。

 映画のストーリーが実話に基づくものだけに、当然ピアニストも実在のジャズ&クラシックピアニストで、彼の名前はドン・シャーリー。ミスターシャーリーとわざわざミスターが付けられると言う程の有名人物。その全盛期はこのツアーの行われた60年代。あのアメリカを代表するシンガー、アンディー・ウイリアムスが主催する(?)レコード会社「ケーデンス」から結構な数のアルバムを出しているピアニストで、ぼくも中古屋で安く出ていたので数枚アルバムを購入した覚えがあるが、余りその作品はジャズとしては感心したものでなく、今はどこにあるのかもしかとはしない。しかしクラシックの作品もかなりな数を残しており、その作曲やピアノのテクニックもなかなかのもの。何せこの時代に住まいがあのカーネギーホールの上に在ったと言うだけでも、黒人としては異色なハイブローの存在でもあった。それだけに南部での演奏旅行は気位の高い彼としては、至る所で拒否され続けと言う苦難の連続だけに、耐え難いものがあった筈。その苦境を用心棒が助ける...と言った予期せぬ展開の連続で、そのエピソードは愉しくも苦く苦渋に富んだものなのである。この2人の友情は21世紀になっても続く生涯を通したものだったのだが、何とも羨ましい限りである。
 
 まあこのグリーン・ブックと言うアカデミー賞作品、期待して損はない好作品だけに見逃している方には是非お勧めしたいもの。ぼくが気になったのは、ドン・シャーリーのピアノトリオ。彼のピアノに白人ベーシスト、そしてなんとこれにチェロが加わると言う、今では考えられないトリオフォーマット。チェロ自身がもうフリージャズなどで一部見られるぐらいでまず登場も無いのだが、この当時は結構あったようである。一番有名なジャズチェロ奏者は、あのジャズ映画の傑作「真夏の夜のジャズ」にも登場する、チコ・ハミルトン・グループに在籍していたフレッド・カッツ。彼があの避暑地ニューポートのホテルで、無心にチェロを練習している姿は大変に印象的だったが、今やチェロでジャズを演奏しようと思う様な、奇特な人物も居なくなってしまったのは、ある意味当然とは思うが何か凄く寂しく気もする。

 「出でよ、21世紀のジャズチェロ奏者」と、喝の一言でも掛けたくなる。

【今週の番組ゲスト:シンガーソングライターの町あかりさん 音楽評論家の原田和典さん】
6枚目のアルバム「それゆけ!電撃流行歌」その他から
M1「青空〜アラビヤの歌 / 町あかり」
M2「東京シューシャインボーイ / 町あかり」
M3Mack the Knife / Ella Fitzgerald」
M4Show Me The Way / Jon Batiste



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