6月22日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [テイスト・オブ・ジャズ]
2019/06/21(金) 19:00 番組スタッフ
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜23:00~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.467~恩田陸】

 イタリアの代表的映画監督、フランコ・ゼフィレッリが1週間ほど前に亡くなった。代表作はシェークスピア作品の映画化「ロミオとジュリエット」だったが、この人は後年映画監督と言うよりも「トスカ」や「カルメン」など、イタリアオペラの演出家として名を成した珍しい経歴の持ち主だった。その彼の代表作の一つが「ブラザー・サン シスター・ムーン」。イタリアの聖人、聖フランチェスカの青春時代を描いたもので、ぼく自身は未見だが出来栄えはそう褒められたものでは無かったようである。しかし今日の主題はこの監督ではなくこの同名タイトル「ブラザー・サン シスター・ムーン」という単行本のこと。


 作者は「蜜蜂と遠雷」と言う国際ピアノコンクールの出場者の話を描いた小説や、「夜のピクニック」と言う作者の高校時代、水戸一高の夜間ピクニックの模様を描いた作品で知られる恩田陸。前記2作品に比べると余り知られないこの作品を今回どうして...と言うと、この小説のメイン舞台が我が早稲田大で、三人いる主人公の一人の衛は、早稲田のジャズ研に所属するベーシスト。4年にはレギュラーの座を獲得すると言うことで、早大ジャズ研が一つの大きな舞台と言う珍しい小説なのである。これは是非とも皆様に紹介しておかねば...と言うことなのだが、これが書かれたのは今から10年も前の2009年のこと。それを今回わざわざ取り上げたのは、偶然図書館でこの本に巡り合ったからに他ならない。

 
作者の恩田陸は早稲田大の教育学部出身で、学生時代は早大を代表するフルバンド「ハイソサエティー・オーケストラ」、いわゆるハイソでアルトサックスを吹いていた経歴の持ち主。同時に有名な早稲田ミステリークラブにも所属、ここでの活動が後の作家生活にも役立っているのだが、主人公の一人はこのミステリ研ではなく映画研に所属と言うことになっており、もう一人の主役が彼女自身を投影した様な女子学生である。恩田さんの作品でぼくが読んだのは「夜のピクニック」と「蛇行する川のほとり」位なのだが、彼女がハイソに所属したことがあり、何かジャズ研かハイソを舞台にした小説を書いている...と言う話は聞いていた。また付き合っていた男子学生が、ジャズ研のメンバーの一人だと言う話も、ぼく等OBの中では結構知られた話。しかしその作品が何かは分からなかったし、特に知りたいとも思っていなかった。それが少し前に国分寺の図書館で借りる本を探していた時、偶然にも目に付いたのだった。本の惹句には「青春小説の新たなスタンダードナンバー誕生」とあり「本と映画と音楽...それさえあれば幸せだった。」と続く。
 作者が恩田でこの文句、これに惹かれて内容も分からず読み始めたらば、なんとこれがジャズ研小説だったのである。全体は3部構成になっており、3人の主役それぞれの章建て、それぞれの視点で書かれている。3人はどうやら水戸一高の同級生で、3人とも同時に早稲田大に入学と言った設定。第1章は恩田を写した綾音が主役の「あいつと私」、そして第2章が衛が主役の早稲田大ジャズ研物語「青い花」で、この2人は一応付き合っているのだが、余り事件もなく関係は自然消滅...と言った具合で、さしてドラマティックな展開の無い小説だが、第2章は色々な意味で面白かった。読んでいてああこれが噂のジャズ研小説か...と気が付いたのだが、考えてみればトホホな成り行きである。 

 
恩田さんはぼくなんかよりも一世代以上も下の代だけに、ここで書かれた音楽長屋などは大分雰囲気は違うのだが、それなりの懐かしさもあり、バンドのレギュラー目指して頑張る学生像なども興味深いものだった。そして高校の同級生である3人を結ぶのが、3人で一緒に見た映画「ブラザー・サン...」なのである。ドラマチックと言うよりも淡々とした青春小説なのだが、そこら辺が反ってリアリティーのある所で、もう一人の主役は映画監督になると言う設定。
 
第2章のラスト近く「俺は就職するだろう。醒めた気持ちでそう思った。衛の予想通り卒業して鉄鋼メーカーに勤めるようになると、その後やって来たバンドブームと共に、彼は日本のロックバンドばかり聴くようになってゆく」とある。もうこの頃からジャズの凋落は始まっていたのかも知れない...。残念なことだがそれもまた真実なのだろう。

【今週の番組ゲスト:Playwrightレーベル代表の谷口慶介さん、POLYPLUSのリーダーでサックスプレイヤーのTSUUJIIさん、ベーシストのYUKIさん】
M1wake me up / POLYPLUS
M2
Orange / m.s.t.
M3
Butterfly Effect / fox capture plan
M4
late at night / POLYPLUS

コメント