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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日22:00-22:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.205~川島哲郎参上~】

 今ジャズ界はピアノの時代とも言われる。ジャズアルバムで売れるのはほとんどがピアノアルバムで、かつてのジャズ黄金時代を彩った花形楽器のサックスやトランペットと言った管楽器奏者のアルバムは、どうも分が無いようなのである。この傾向はジャズがいささか元気を失いつつある感が出はじめた1980年代初頭以降そうなっている。今なお売れるのはピアノと相場が決まっているようだが、これに決然と反旗を翻す...と言うかサックスの復権の為に大いに気を吐いているのが、今実力NO1の存在として自他ともに認める、川島哲郎なのである。彼の最近の充実振りはまさに特筆に値するもので、ぼくも数年前彼のアルバム『祈り』を年間のベスト作品に推奨したものだが、それほど素晴らしい作品を次々に発表し続けている存在なのである。

 その彼の実力を誰よりも評価していたのが、今は亡きジャズ・プロデユーサーの横田健生氏だった。川島自身も折あるごとに「横田氏無くしては、今日のぼくの存在は無い...」と言い続けていたが、その彼は惜しくも昨年亡くなってしまった。横田氏はぼくとほぼ同世代で、古くからジャズの仕事を一緒にやった良き仲間でもあり、番組にも何回か登場してもらった。その彼を偲んで昨年秋、新橋のジャズ・クラブで彼を偲ぶ会が開かれたが、その席で川島は彼を偲んでテナー・ソロの追悼演奏を披露してくれた。これが涙なくしては聞けない絶品で、会のあと数人のジャズ関係者で飲んだ時に誰からとも無く「あの演奏、アルバムにしたかったなー」と声が上がったものだった。こうした声を受け川島は去年の終わりに横田氏追悼ライブをあるジャズ・クラブで開催、その演奏の素晴らしさに感激したクラブのマスターが、その演奏を2枚組のアルバムに纏めたのだった。

 『ラメンテーション』(ラメント=追悼)とタイトルされたそのライブ作は、予想通りの素晴らしさで、ライブに行けなかったぼくとしても、是非彼にスタジオに来てもらって、そのライブの模様、故横田氏の話などを聞かせてもらいたいと思って連絡すると快諾をもらい、スタジオに川島参上となったのだった。彼がスタジオに遊びに来てくれるのは、今回で確か4回目ぐらいのはずだが、いつもとは少し様相が違った。タイトルの「ラメンテーション」を始め、横田氏が川島の曲の中で最も好きだった組曲「月」、ヘビースモーカーだった横田氏を偲んだ自作の「スモーク・オブ・ピース」(両切りの缶入りピースを、スパスパ吸い続けていた)など2枚組全13曲。どれも彼の思い出に通じるナンバーばかりだが、中でもぼくが印象深かったのは、シューベルトとカッチーニの2曲の「アベマリア」。クラシックのこの名曲を、彼は深い哀悼の意をこめ切々と奏で上げる。涙なしには...、の感動作である。アルバムのライナーも彼自身が担当。「こんなライブ今迄にやったことが無い。人生に残るいい経験をさせていただいた。(中略)天国に喫煙所があるかは判らないが、絶えず缶ピースを持ち歩いていた横田さんに、ぼくの想いを込めた曲を捧げます...」と。

 番組ではこの追悼ライブについて、熱く川島自身が語ってくれている。それにしてもこんな素晴らしいアルバムを捧げられた横田君。本当に天国で喜んでいる筈。同じプロデューサー仲間として羨ましい限りですね。

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