お知らせ:

テイスト・オブ・ジャズ

番組へのお便りはこちら
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.297~3・11から5年】

 今年もまた3・11が来て、あっという間に過ぎ去っていった。東日本大震災、あの未曾有の大災害からはや5年、被災地での人口流出も激しく、未だ遅々として復興も進まないなどの実情を、TV画面で次々と見せられると、何とも言えぬ無力感とやるせなさで一杯になる。なかでも許せないのは、この大災害が炙り出した諸悪の根源とも言える原子力発電の存在。後世にも大禍根を残すあれだけの惨状を現出しながらも、その教訓は少しも生かされず次々と原発が再稼働し始め、新規の原発すら画策していると言う。せめてもの救いは先日の高浜原発稼働差し止め判決ぐらいで、原発推進にいそしむ連中、そしてそれに追随する輩、もうなにをかいわんやで、こうした連中に限って無人の荒れ果てた荒野を現出させながら「美しい国土を守ろう...」などと権力追随を声高に宣うのである。

 この3・11を迎えると、こんな怒りばかりが鬱積してしまうのだが、あの大震災後には各国のジャズプレーヤーやシンガー達も次々と支援、激励アルバムを発表してくれたものだった。特に印象深かったのはピアニスト&アレンジャーのボブ・ジェームス。彼は被災地のアマチュアビッグバンドの支援、指導に積極的で、数回にわたる合同練習の後あの東京ジャズのステージでも共演したりもしたのだが、この彼の活動を追ったNHKの音楽ドキュメンタリーもなかなか秀逸なものだった。そんな彼なども加わって震災支援の大規模コンサートも今回開かれ、その模様もTV中継されていたが、ある意味「音楽の力」を感じさせるものだった。菅野よう子が書いた「花は咲く」、NHKの復興支援ソングともいえるこの曲もまた、音楽の力を著しく感じさせる名曲だと言える。この曲をジャズで取り上げている人が少ないのは大変残念だが、ジャズプレーヤーの中にも地道に復興支援ライブを続けている人も少なくなく、特に特筆すべきは女流フルート奏者の佐々木優花さん。彼女のチャリティーライブはもう150回を数え、義援金も相当な額に達したと言われる。自省を含めこうした活動には本当に頭が下がる思いだ。

 そしてこの災害関連アルバムでは、ぼくがベストと思うものが、日本を代表するSSW(シンガーソングライター)畠山美由紀の『我が美しき故郷よ』である。この故郷追慕のアルバムについては以前にもこのコラムで紹介したことがあるし、彼女自身も我がジャズ番組に来てくれて色々と語ってくれたが、ここでのタイトル詩(これは雑誌「スイッチ」に彼女が寄稿した素晴らしい詩編)で、それを彼女はジャズピアニスト、鬼武みゆきさんのピアノだけをバックに淡々と読み上げる。故郷~気仙沼の美しい自然、人々の愛おしい暮らし振りなどが、本当に心震える感涙ものとして、ぼくらの眼前に立ち現われる、まさに圧倒的な朗読なのである。
 彼女の故郷は最も被害が激しかった街の一つ気仙沼市。幼なじみなどでも亡くなったしまった人も少なくないとも言われるこの被災市、その朗読が恬淡としていればいるほど、悲しみも胸に迫ってくるものも大きい。この「我が美しき故郷よ」は、彼女自身が曲を付けて歌っており、今や彼女の重要なレパートリーの一つで、その歌唱はYouTubeにもアップされてもいるが、これは彼女と鬼武コンビでのアルバム内での詩朗読にはるかに及ばない。そういえば彼女は当然あの「花は咲く」も歌っており、これもまたなかなかの感動ものだった。
 
 「3・11」ぼくたちはこの日への想いを決して風化させてはならない。そして"美しい故郷・美しい国土"を残すために、あの忌まわしき原発問題を忘れ去ってはならない、と言う思いを新たにした一日だった。
【今週の番組ゲスト:ピアニストの細川千尋さん 
M1「I'm Home」
M2「Spirit oh blaze」
M3「心の手紙」
M4「Thanks!」
 

お知らせ

お知らせ一覧