3月18日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [テイスト・オブ・ジャズ]
2017/03/17(金) 19:02 番組スタッフ
テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.349~エノケンと笠置シズ子】

  いささか不思議なことかも知れないが、我が国のジャズライターや編集者などいわゆるジャズ関係者のほとんどが、戦前のジャズ即ち日本のジャズ(J-ジャズor和ジャズ)創成期の頃のことを知らないし、関心もないようである。こう書いているぼく自身も、かつてはそうだったので余り偉そうなことも言えないず関心は無かった。現在この戦前=創成期のことを知っているのは、ジャズ業界の先輩で90才を超えた今なお、現役でバリバリとライブ現場などにも顔を出している瀬川昌久さん位なもの。その他はジャズ関係者ではなく、歌謡曲の歴史や大衆演芸史などを研究している研究家やジャーナリストなどと言った所になってしまう。かつて油井正一さんや野口久光さんなど、業界のオーソリティー達がご存命の折には、自身の実体験としてもここら辺の音楽=ジャズについて語ってくれたものだが、今は瀬川氏頼み。彼は本職は銀行マンで、昭和20
年代のNY駐在時代にモダンジャズの創始者、バードことチャーリー・パーカー、そしてレディー・デイ=ビリー・ホリディ―の生ライブを現地で体験したという日本人では貴重な存在。

 
ぼく自身はあの大ヒットした自由劇団の芝居「上海バンスキング」で、ここら辺のジャズソングに興味を抱き、主演の吉田日出子さんが真似をしたという戦前のジャズスター川畑文子(ハワイ出身の日系2世で、日本に里帰りしその愛くるしい容姿で、アイドル的な人気を博した)、彼女の存在を知り一時その魅力に惹かれた訳だが、それ以降は関心も薄れてしまった。それがひょんなことから都内某区の教養講座「ジャズの面白さ(仮)」を引き受ける羽目になってしまい、苦し紛れに思いついたのが日本のジャズ。今年は丁度ジャズレコード誕生100周年(ODJB=オリジナル・デキシー・ジャズ・バンドが最初のジャズアルバムを吹き込み100年目)にもあたり、ここらでひとつ日本のジャズにも目を向けても...などとも考え、これをテーマにしたのだが、その1回目が戦前=創成期のジャズ。家に関連アルバムも結構あるはず等とCD、レコードの山を探したのだが、誰かが持って行ってしまったのか、とんと見つからない。講座の当日は迫るし、かなり焦りまくって知り合いなどを総動員、川畑文子やディック・ミネなどと言った歌手の関連音源をかき集め、再度ここら辺を勉強した。

 
ところでわが国で初めてジャズアルバムが吹き込まれたのは、ODJBの初吹込みがあってから6年ほど後の大正末期。そして昭和の初めに二村定一と言う歌手(浅草オペラのスターだった)が、「アラビアの唄」「青空」と言うジャズソング(小唄)2曲を正式に吹き込み、これが数十万枚の大ヒット(今では考えられませんね)。なんとバックは慶応大学生バンドが務めたというこの2曲、日本でもジャズソングブームが始まったと言う次第。ここからディック・ミネ(「ダイナ」の大ヒット曲を誇る)、川畑文子などが登場、スイングダンス大流行と共に昭和初期の日本ジャズエイジが現出されていき、頂点に達するとともに、遂には第2次世界大戦が勃発し、ジャズは敵性音楽として弾圧を受ける...という悲惨な末路を辿るのだが、その間にも戦前のジャズ界は世界に誇りうる天才2人を生み出している。それがエノケンこと榎本健一と笠置シズ子。

 
今は残念なことに、知る人もいなくなってしまったこの2人。エノケンこと榎本健一は日本の喜劇王と呼ばれた人気喜劇役者兼歌手。一方笠置の方は「東京ブギ」の大ヒットをはじめ数々のブギソングで、終戦直後の日本を明るく照らした歌う大スター。エノケンは二村定一と浅草の舞台で共演したこともあるが、全く独自の歌い口と解釈によるスタンダードソング(「青空」「南京豆売り」「雨に唄えば」等々)のエノケン流焼き直し歌謡で、世界にも稀なジャズソングを作り上げた天才。「俺は村中で一番...」の歌詞で知られる「洒落男」が最も有名だが、まあこんな歌い手世界中どこにいません...と言った唯一の存在。その上少しも本場のジャズシンガーの真似をしようなどと言う、媚びた考え・姿勢も一切ない潔さ。ただ残念なことにこの天才の音源は現在全て廃盤。彼の音源を集めるのに今回相当苦労したが、これは文化的ロスとして考えないといけない問題。

 
一方の笠置シズ子は、戦前・戦後のジャズ&ポップ歌謡の大立者、服部良一の「ラッパと娘(1934年・昭和14年)」で本格デビュー。その後戦後直ぐに服部良一の一連のブギソングで一世を風靡することになるのだが、このデビューのジャズソングでの才能が素晴らしい。日本最初のスキャット唱法も取り込み、豪放に大胆にスイングし、バックのバンドと本格的なコール&レスポンスを展開する。正に胸のすくような快唱で、こんな歌手が戦前にいたとは...。あっと驚く天下一品の歌いっ振りである。

 まあこんな調子で戦前のジャズについて一席ぶったわけだが、この講座の模様はまたお伝えしようと思う。皆様はもし興味を持ったらば、取りあえずエノケンと笠置シズ子、この2人の唄だけでも聴いてみてください。音源探しが少し大変かもしれませんが...。
【今週の番組ゲスト:ベーシストの金澤英明さんとピアニストの栗林すみれさん】
アルバム『二重奏』から
M1「Mary Hartman,Mary Hartman」
M2「Halu」
M3「RAKUYO」
M4「All The Things You Are」

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