お知らせ:

テイスト・オブ・ジャズ

番組へのお便りはこちら
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜23:00~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.448~橋本治死す】

 ぼくの様なオールドボーイ=ロートルともなると、周りにはこの所訃報も数多く、余り人の死亡ニュースにも関心が無くなってくる。だがこの人の死亡ニュースには少しばかり驚かされた。作家・エッセイストにして、批評家、思想家とも言えそうな橋本治である。死因は癌ではなく肺炎とのこのようで、かなりな大男だが病には勝てなかったのである。橋本治と言っても今の若い人達は、なにその男...と言った感じで、殆ど名前を聞いたことも見たこともないと言った所だろう。しかし凄い男なのである。日本古来の伝統から流行りのアイドルまで、縦横に語れ視野も広く文明観もしっかり持ち、しかもあのデビュー作の「桃尻娘」に象徴されるようにポップさも兼ね備え、更に言えばセーター編みの大家でもある。そんな彼がいなくなるのは、日本全体にとって大損失なのは間違いない。

 
まあ彼にそんなに入れ込んでいるぼくではあるが、彼と最後に会ったのは今からもう30年以上も前のことで、彼の家(独身の彼は当時確か練馬区住まいだったと思う)迄行って、出演交渉をした時のこと。都会(住宅地)の中でただ一人蟄居生活とでも言えそうな、良く言えばシンプルライフ、実際は何とも侘しい生活、現代の兼好法師と言った趣きさえあったように思う。番組は2時間を超す長尺のライバル対談番組(当時はこんな番組も作らされていた)で、当時話題を集めていた気鋭作家が、橋本相手ならば俺も出演する...と言い出し、それを受けての出演交渉だったが、橋本の方はその作家へ少しも関心が無く交渉結果は見事にバツ、出演拒否されてしまった。
 実は彼に断られたのはこれが2度目だったが、その出演拒否の理由が全く橋本の言うとおりだったのですごすご引き返すしかなかった。最初の出演交渉は彼が未だ東大の学生時代、あの余りにも有名になった東大5月祭のポスター「止めてくれるなおっかさん、背中のイチョウが...」を作った直後、ぼくも入局数年目、若さに任せて頼み込んだのだがこの時もキッパリと拒否、それから10数年たっての再交渉も駄目で、そういう意味では全く仕事をしたこともないし、会ったのも若い頃に数回だけ。伝説の四谷の文壇飲み屋「ホワイト」(ここでは沢山特番を造らせてもらいました)物腰は柔らかいが強烈な印象を残す男の人で、なんとも忘れ難い存在だった。

 
その彼は後年「源氏物語」や「平家物語」、「枕草子」など古典ものの独特な現代語訳で、他を寄せ付けない業績を残してくれたのだが、ぼくが惹かれたのはその小説群。「ツバメが来た日」「蝶のゆくえ」等の短編集。「巡礼」「リア家の人達」などの長編群。どれも一つとしてハズレ作の無い実に読みごたえのある、現代きっての作家だったと思うし、中でも短編の切れ味は抜群で最高の短編作家でもあった。また日本の現状についても厳しい眼差しを向け、鋭い指摘を行っており、その評論集・思想集は分かり易い体裁ながら独特な怒りを発していた。今彼の死によって小説、思想等その作品が読めなくなるのは実に寂しいが、まあそれも全て詮無きことなのである。

 実は彼はぼくの高校の後輩で、ぼくの卒業時に入学と言う感じで学校ではダブってはいないのだが、その豊多摩と言う高校、杉並区の公立進学校で西高に次ぐ存在、東大合格者もそれなりにいた。今は残念ながら大分落ちぶれてしまった様でもあるが、そのつてで出演依頼もした訳だが、あっけなく敗退。以降は無関係だったがぼくは彼の小説・エッセイのかなり熱心なファンの一人。それだけに一度はちゃんと仕事をしてみたかったが...。
 
 
とここ迄橋本治の死亡について書き終えたら、またも二人の死亡ニュースを知らされた。一人は今は亡きジャズ雑誌「スイング・ジャーナル」の名物編集長で未発表音源の発掘などで「ボックス・マン」として世界中のジャズジャーナリストにも知られた児山紀芳氏、スキャンダルゴシップ雑誌と言われながらも、強烈な反骨・反体制精神を貫いた奇跡の雑誌「噂の真相」の名物編集長、岡留安則、奇しくも同じ雑誌編集者の死である。
児山さんについてはジャズトークで青木和富氏も語る筈だし、このコラムでもまた改めて書かせてもらおうと思っている。一方岡留氏の方は享年71才、橋本と同じ年の筈である。雑誌を終刊にしてからは余り噂を耳にしたことも無かったが、昔からお気に入りの沖縄に居を移したようで、その地で亡くなったとのこと。局の後輩でジャズ研の後輩でもあるエルカミナンテ岡本育夫が、彼を使った番組をやっておりそれで知り合ったが、その他にも新宿ゴールデン街の飲み屋でも時々一緒になることもあった。彼もまたすごい漢だった。どんどんそうした好漢がいなくなってしまう。寂しい限りです。

【今週の番組ゲスト:ジャズシンガーの黒木美紀さん、ギタリストでプロデューサーの三好'三吉'功郎さん】
黒木さんのデビューアルバム「Leaf of Glass」から
M1
How high the moon
M2
「リン。」
M3
One note samba
M4
Leaf of Glass
M5
「"Hiya-jill" for two

お知らせ

お知らせ一覧