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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.289~ハーモニカの達人】

 東京の神保町、古本とカレーの街として知られるここの裏通りのとある雑居ビル。そこの4階に心地良いジャズカフェ「アデュロンダック・カフェ」がある。店主の滝沢さんはジャズアルバムのバイヤーとしてNY生活も長く、日本に戻ってからは輸入盤CDショップ店をしばらくやった後にこのジャズカフェを開店。週に一日はライブも実施しており、これがかなりな評判を集めている。ぼくもこの店の雰囲気がかなり気にいっており、時々店に顔を出しているのだが、ここでの好評ライブをCD化しようと言うアイデアが出され、数年前に「アデュロンダック・レーベル」として、その第一弾(札幌の若きピアニストのアルバム)が発表された。番組でもその第一弾作品を紹介したが、このたびその第2弾が様々な紆余曲折を経て、今月ようやく登場する運びとなった。早速そのアルバム、ハーモニカとピアノとベースと言う極めて変則的な編成のトリオ作品『ドキシー』を、再び紹介することとした。ゲストはそのトリオの一員であるハーモニカ奏者の続木力(つづき ちから)さんと、レーベルオーナー兼プロデューサーの滝沢理さんの2人。

 
この変則トリオ、続木さんの他にベースの吉野弘、ピアノの石井彰と言う、いかにも玄人好みの実力派揃い。その内容も彼らならではの素晴らしいもので、数年前に「アデュロンダック」で行われたライブ録音だが、3人が顔を合わせたのはこの時が初めてだったと言う。だがそこは実力派どうしだけに、その成果は抜群。ぼくも偶然にこの録音を店で聴かせてもらい、その内容の素晴らしさに感激。滝沢氏にアルバム化することを強く勧めた一人だったが、そうした要望を出した人も多かったようで「アデュロンレーベル」の第2弾としてオーナーも決めたのだった。
 そしてアルバム化を強く勧めた男と言うことで、ぼくがアルバムのライナーノートを執筆するはめになり、そのアルバムの帯キャッチは「東京・神保町の心地よいジャズ空間=アデュロンダック。そこでのジャズの匠達による奇跡の邂逅。このピアソラジャズは素敵過ぎます!」としたのだった。


 
この褒め言葉、決してオーバーなものではなく、現代タンゴの巨匠、アストル・ピアソラの数多いジャズバージョンの中でも、指折りのものの一つだと断言出来るだけのかなり圧巻な内容。なによりハーモニカとベース&ピアノと言う組み合わせが抜群だし、メインになるハーモニカが実にいい味わいなのだ。このハーモニカと言う楽器は、あまりジャズの世界には登場しないマイナーな存在なのだが(ブルースなどでは多いが)、今は亡きトゥーツ・シールマンスと言うベルギーのジャズハーモニカ奏者によって、ジャズの世界でも認識されるようになった。続木さんも彼や妹尾雄一郎などの影響を受け、独学で哀愁を含んだ自身のスタイルを作り上げたと聞く。その独自なスタイルが、ピアソラやキース・ジャレットなどのサウダージ(郷愁)たっぷりな選曲にもピッタリ。ラストはあのサッチモの名演で知られる「この素晴らしき世界」、これがまた良しなのだ。ぼくはジャズハーモニカアルバムを見つけると直ぐに買い、と言うほど、この楽器にはまっており、そのうえピアソラも大のお気に入り。となればこのアルバム、大推薦以外にないし、そのライナーを担当出来たのも、大変幸運なことでもあった。

 
そう言えば続木氏とは数年前、谷川俊太郎さんの自由学園での「詩の朗読ライブ」でご一緒した仲で、この谷川氏をメインにしたライブの特別番組は、嬉しいことに民放祭のラジオ部門制作賞を受賞。そういった意味でも彼はぼくにとって忘れられない存在でもある。面白いことに彼は、フランスでハーモニカの勉強を修めていたのだが、このフランス渡航は実家のパン屋を継ぐための修行研修で、それが道を外れて(路上で聴いたハーモニカ奏者の演奏にいたく感激してのこと)音楽に進んでしまったというのだから誠に不思議なもの。これも彼の実兄、ジャズピアニストの続木徹さんの影響も大だったようだが、人生って本当に判らないものですよね。
【今週の番組ゲスト:続木力(つづき ちから)さんと、アディロンダック・レコードの滝沢理(おさむ)さん】
M1「Doxy」
M2「Oblivion」
M3「What a Wonderful World」

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