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テイスト・オブ・ジャズ

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テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.389~私こそ、音楽】

 クリスマスなのでいつもならば「ジャズとクリスマス」と言う話題になるのだが、今回はちょっと趣を変える。先日ようやく見たい々と前から切望していたドキュメンタリー映画を見たのでそのことを...。元々ものぐさだけに、熱心に誘ってくれる人がいないとコンサートなどもスルーしてしまい、結構失敗を重ねるタイプだけに、この映画も見る機会を逸していた。映画は数年前公開で、ドキュメンタリーものとしては珍しくスマッシュヒット、全国でも上映され結構話題になった。邦題サブタイトルが「私こそ音楽」。なんともの凄いと言うか...自信過剰気味のもので、普通だったらすぐ鑑賞をスルーしてしまうのだが、この人のドキュメントならさもありなんという感じで、まさに天才なのである。その人の名はマルタ・アルゲリッチ。
 
クラシックでは辺境の一国とも言えるアルゼンチンの出身で実に魅力的な美女、超の付く実力派だけに人気も絶大、意思強固で奔放な生き方を誇る根っからの自由人。離婚も数回で大のインタビュー嫌い、その私生活は謎に包まれている...と来れば、ドキュメンタリー映画が話題を呼ぶのもある意味当然のこと。

 
実をいうとぼくは仕事柄好きなピアニストは...と聞かれれば、キース・ジャレット、ブラッド・メルドー、ジョン・ルイスなどとジャズピアニストの名前を上げる訳だが、「孤島の1枚(孤島に帯同したい唯一のアルバム)」とか「いまわの1枚(死ぬ直前に聞きたい1枚)」などと言う究極のアルバム選定~と言うことは最も愛しているピアニストと言う意味合いでもあるのだが...、グレン・グールドとアルゲリッチと言うクラシック界の天才2人と言うことになる。この2人の達人はそのピアノスタイルからして大違いで、理知派の代表格、グールドが極端に遅いスピードでバッハなどを弾き綴るのに対し、アルゲリッチはその奔放さを反映してか、実にスピード感溢れる急速調テンポで弾き込むのである。グールドが音楽コンクールなどは一切無視するのに対し、アルゲリッチはショパンコンクールで名を挙げ、その他のコンクールにも度々顔を出している。しかしこの天才達にも当然共通点はあり、互いに人嫌いでインタビューなども殆ど受けない。それだけに彼女の内面に食い込んだドキュメンタリー映画は、かなり興味深く音楽ファンにも捉えられた筈なのである。
 このフィルムの監督・撮影はステファーニ・アルゲリッチ。名前からも分かるように彼女の3女。上の2人も女性でそれぞれに父親は違う。マルタが最も可愛がっていたのがこのステファーニだけに、世界中のコンサートに同行、その舞台裏も廻しており、インタビューなどもそれと感じさせない程に自然で突っ込みも鋭い。彼女自身も何でも聞かれることを許しており、ここら辺がこのドキュメンタリーの出色なところ。気が向かないとすぐに公演キャンセルなども行うことでマルタは有名だが、そこら辺の心の揺れも見事なほど容赦なく捉えられているし、かつてのあの美女の70代後半の老女になっての信じがたいほど容貌の衰え、これにも容赦ない。
 
何せ映画のスタートがパリかローザンヌか...、ヨーロッパのどこかの都市に佇む醜く太ったホームレスに見まがう老女(こんな人上野近辺でも見かける)、顔を見てもまさかこれがあのアルゲリッチとは思えなかったが、話が進むにつれなんとも魅力的な老女に変わって来る。演奏会、コンクール、付き合った男、それぞれに親の違う娘達、アルゼンチンの両親(母親は東欧移民のユダヤ系)など、彼女のモノローグが続き、その中に現在のピアノの練習やコンサート風景、ショパンコンクール当時の全盛期の模様など、フィルムもインサートされそれらについての彼女のコメントも興味深い。また彼女はあのぼくの大好きな温泉町、別府市で国際アルゲリッチ音楽祭を主催したことがある。それはもう数十年になっている筈で、以前別府に立ち寄った折が偶然その開催時、そこで音楽祭を聴いたこともある(と言っても彼女が弾いていた訳では無かったが...)。彼女の長女は中国系でヴァイオリン奏者だが、母親とは別れて育ち大変苦労もしたらしい。その辺の事情も判明し興味津々だし、また彼女はショパンコンクールの審査員として、あの天才ポゴレリッティが選ばれなかった時、憤然として審査員席を立ち抗議した、そのエピソードも筋を通す女性として忘れ難い。

 
そうした個人的事情・逸話だけでなく、いずれにしろ本当に凄いスケールの魅力たっぷりな稀有の女性音楽家で、改めてその素晴らしさに感銘を受ける。帰宅するや再度ぼくの一番好きな彼女のバッハのピアノ曲集アルバムをむさぼり聴いた。言うことなしのまさに天界の音楽だった。

 
アルゲリッチ映画に続いては、少し番組情報を...。来年のテイスト・オブ・ジャズ、新年の初回は、ジャズギターの...と言うよりも日本ギター界のレジェンドである渡辺香津美が登場。新しい年の抱負を披露、続いては日本ジャズシーン異端の実力派美女、折り紙付きの実力派ながら、その言動が何かと話題を集める大西順子等々、大御所や話題の新人の出演が次々と続きます。他局には無い豪華な面々。乞うご期待です!なお12月23日の番組は本放送が22:00-22:30になります。
【今週の番組ゲスト:JAZZバイオリニストの牧山純子さん】
先月リリースの『ルチア〜スロベニア組曲』をご紹介。

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