10月27日の「テイスト・オブ・ジャズ」 [テイスト・オブ・ジャズ]
2018/10/26(金) 19:00 番組スタッフ
「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、土曜曜22:00~、日曜22:30~で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.433~失った貴重盤が...】

 以前にもこのコラムで触れたと思うのだが、今ぼくは自宅と追分の山荘を合わせるとおよそ8000枚強のアルバム(CD+アナログ盤)を抱え込んでいる筈で、その4分の1ほどが追分で残りは自宅と言った配分。まあこれは少しも自慢できる話などでは無く、今時そんな無駄なものを...と言われそうだし、整理整頓が苦手でずぼらなだけにCDは積読(聴き)状態、部屋にCDが山積で家人からはいつでも捨てるからね...などと脅され続けている始末。実際のところ整理が良くないために、放送音源や書き物資料など音源資料が必要な時に限って見つからず、その都度CDショップに出かけ買い求めるなどと言う...、実に馬鹿げたことをしょっちゅうやっているのだ。それだけに自分の本当にお気に入りの50数枚は、別箱に保管する様にしているのだが、これも知り合いが訪ねて来た時などに軽い気持ちでその中から持ち出してしまい、そうすると殆ど手元に戻ってこない状態のアルバムも少なくない。
 そんな中の大事な1枚が、ソプラノサックスの創始者とも言えるシドニー・べシェの『ホエン・ソプラノ・ミーツ・ア・ピアノ』というアルバムで、べシェが1957年にパリで吹き込んだもの。タイトルのとおりフランスを代表するジャズピアニスト、マーシャル・ソラールと共演したもので、フランスの代表的レーベル「ヴォーグ」に収録されており、ぼくが持っていたのはその貴重なオリジナル盤。

 
これを手に入れたのは確か大学最後の年のはずで、知り合いの家でこのアルバムを聴かされ、当時はジョン・コルトレーンのソプラノサックスになじんでいたぼくとしては、時代を超越したその凄じいビブラートプレーに度肝を抜かれた思いがあり、知り合いに頼み込んで安く譲って貰った大事な1枚だった。しかし自慢げにこのアルバムを誰かに聴かせたのが運の尽き...、その誰かに貸し出しそのまま行方が分からなくなってしまったと言うトホホな事態。「ディスク・ユニオン」等の中古ショップに行く際は、結構べシェのこのアルバムを探してみるし、もしCD化されているならば...と探してみても当然見つからず、ぼくにとっての貴重な幻の1枚になってしまっていた。

 
それが全くひょんなことからこのアルバムのCDを見つけることが出来たのだ。ソプラノサックを吹くある新人のアルバム・ライナーノーツを頼まれべシェのことを調べていたら、なんとこのアルバムが今年の夏前に、モダンからクラシックジャズまでを網羅した20枚のIC(インナー・シティ)レーベル、「ジャズ・クラシック・シリーズ」の1枚として、日本でもひっそりと発売されていたのだった。これに気付くや欣喜雀躍状態で、一直線にCDショップに駆け込み珍しくも直ぐに正価で手に入れたのだった。家に持ち帰りアルバムジャケットを眺めると、ぼくの記憶とは大分異なりべシェとソラールの2人の顔を写した味気ないもの。まあこれも仕方ないだろうとアルバムをトレーに乗せてみると...。

 
といった所でべシェには関心ない...、というよりも彼の存在を知らないこのコラムの読者も多いはずなので、彼について簡単に紹介してみよう。ジャズの世界で初めてソプラノサックスを導入した巨匠であるのは当然で、ジャズ界ではあの天才サッチモ=ルイ・アームストロングと並ぶ、偉大なイノベーターにしてインプロバイザーとして高く評価される偉大な存在なのである。2人は同じジャズ都市、ニューオリーンズの出身で、年令はべシェの方が3才ほど年上。それがサッチモの方はジャズファン以外の誰でも知るようなビッグな存在なのに対し、べシェの方はジャズファンですら知らない...といった具合で、今では大きな差が付いてしまっている。これは全く残念なことなのだが、べシェもある時は日本でもかなりポピュラーな存在だったこともあるのだ。と言うのもJ-ポップスの元祖とも言われ、60年代には大人気を誇ったあの2人組デュオ姉妹、「ザ・ピーナツ」(なんだそれ...などと言われてしまうかも知れないが...)が唄って大ヒットした「小さな花~プティット・フルール」これの作曲者がシドニー・べシェで、この歌は世界的に大ヒットし一時はサッチモをも凌駕するほどだったのだ。彼は元々クラリネット奏者だったのだが、1920年代に欧州に楽団旅行に行った折ソプラノサックスと出会い、痛く気に入った彼はこれを主楽器にして大活躍。欧州好きでもあった彼は1950年にパリに移住、同地で「小さな花」の大ヒットをはじめ欧州中のジャズプレーヤーから敬愛を集め、その生涯を閉じることになった。享年62才。

 そんなジャズの歴史とともに歩いて来た巨匠でもある彼が、パリで、フランスのモダンジャズプレーヤーと共演したのがこのアルバム。そのモダンさに驚かされる1枚でもあるのだが、長いこと聴いていなかったのでぼくの勘違いも多く、てっきりこれはべシェとソラールとのデュオアルバムと思い込んでいたのだが、れっきとした彼とソラールトリオとの共演作。収録曲のうち丁度半分がソラール(p)ピエール・ミシュロ(b)、ケニー・クラーク(ds)といった、超一流のモダンジャズメンとの共演で、やはりかなりなモダンさ。しかし思っていたほどには迫力が無く、こんなものか...といささか気抜けしたのも事実。内容は素晴らしいのだがぼくの長年の想い入れが凄いだけに、いささか評価が下がってしまったのは当方の勝手な所。今はすぐに手に入る秀作アルバムなので、シドニー・べシェと言う大巨匠の豪快な技、是非堪能して欲しいものです。
 

【今週の番組ゲスト:ジャズ・トーク 音楽評論家の青木和富先生】
「ジャズオーケストラの歴史」についてお話し頂きました。
M1「The Mooche  /  Duke Ellington」
M2「Sing Sing Sing / Benny Goodman」
M3「The Champ / Dizzy Gillespie」
M4「Rat Race / Count Basie」
M5「Gonna Fly Now (Theme from Rocky) / Maynard Ferguson」
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