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テイスト・オブ・ジャズ

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「テイスト・オブ・ジャズ」は毎週土曜日18:00-18:30(本放送)ほか、各曜日で再放送中。番組進行は山本郁アナウンサー。 番組収録のウラ話はこちらのブログでも紹介されています。

【小西啓一の今日もジャズ日和Vol.274~ジャズ映画「セッション」】

 最近のジャズの地盤低下に伴い、ジャズを扱った映画も(モダンジャズの開祖、チャーリー・パーカーの自伝的映画『バード』やジャズミュージシャンを主役に据えた『ラウンド・ミッドナイト』、ジャズをバック・ミュージックに使用したものなど)、ジャズ全盛期の60年~80年代頃に比べて極めて少なくなってしまったが、それでもまだ幾つかは制作されている。このコラムでも前に取り上げたマイケル・キートン主役の『バードマン』は、今やトップドラマーとして君臨しているメキシコ出身のアントニオ・サンチャスの音楽が、主役の心理を描き出す重要なファクターになっていたが、これはあくまでもバック音楽。それに対しこの春公開され話題を呼んだ『セッション』は、ジャズドラマーを目指す音楽大学生が主役で、その彼と鬼師範とも言える担当の教師との激しい葛藤というか、しごき(これがある種のセッションと言う事になるのだろう)を描いたジャズ根性映画で、久々にジャズと本格的に向き合った映画の登場と言う事になる。

 
この映画、アカデミー賞にも数部門でノミネートされ、鬼教師役のJ・K・シモンズがアカデミー助演男優賞を獲得した他、数部門で賞を獲得、映画もかなりな話題を集めジャズ映画として久々のヒットしたもの。この春公開されたとき、ぼくは試写会を見逃し、本編公開時でも行きそびれてかなり気になっていた。それだけにこの10月ようやくヴィデオ作品が公開され、その実物にお目にかかることが出来たのだった。監督のデミアン・チャゼルは確かまだ20代の若さ。本作が本格的な監督デビュー作で実験的な要素も強い、ある種のインディペンデントフィルム。それが単館上映から全米各地に広がるヒット作品になり、その才能を高く評価されることになる。
 
彼は実際にこの映画のようにドラマーとしてプロを目指していたこともあったとも聞くが、それだけに期待も高まる。しかしながら今や日本の音楽フリークにかなりな影響力を持つ、音楽カリスマでサックス奏者&作・編曲家&文筆家の菊池成孔が、ある雑誌で数十ページを使って映画を酷評、その為に音楽ファンは余りこの映画を見ないなどと言う現象も起きたと言うサブストーリーもあったという。ジャズカリスマ、菊池成孔は「マイルス論」など理論家としては超一流と言えるのだが、理論に現実が伴わない典型で、サックス奏者としてはほとんど買える所が無いと言う、かなり矛盾した存在。その菊池先生が徹底的に貶す(反対に映画関係者は高評価が多い)のだから、天邪鬼のぼくなどはかなり面白い映画なのではと...、かえって期待も大きかった。そして実際のヴィデオを見た。はっきり言って失望した。菊池先生がこの映画のどこに激怒したのか(批判文の大半は呼んでいないが)なんとなく分かるような気もした。

 
この映画が21世紀現在のNYの音楽学校ジャズ科のドラマー志望者とその教師を描いているのではなく、舞台が2~30年前ならば、それなりに共鳴する所もあっただろうが、今を生き今のジャズドラマーのなろうとするジャズ青年、そしてそれを指導するジャズ教師(彼はどうやら挫折したジャズピアノ弾きでもあるようなのだが...)の映画とは、到底思えない古さなのである。まあこれもドラマー青年が目指すのがあのバディー・リッチ(正規の手数王とも言われ、スイング時代の後半~モダン初期に大活躍した白人きってのテクニシャン)だと言うのだから、かなりなアナクロニズムと言った感じ(監督がジャズドラマー志望者などとは本当かいなと思ってしまう...)。その教師もまた単に数多くドラムを叩けることだけを金科玉条としている感もありありで、そこには音楽~ジャズへの愛情などほとんど感じられない。クライマックスは憎しみ合う鬼教師と青年の2人、主役の青年が手から血を流しながら延々ドラムソロを続けることで、互いの憎しみが昇華されお互いに分かり合うように微笑みあうというストーリー。ここが予想外の緊張感溢れる感動的な逆転劇と大評判を呼んだのだが、かなり無意味なドラムソロの連続で早くやめろと叫びたくなってしまう程。実体験を基に脚本を書いたと言うこの若い監督にしては、肝心のジャズへの愛情も感じられない結末。ここらがジャズに興味ない観客には感動的と捉えられてしまったのかも知れないが、菊池先生も怒ったと思うとおり、ジャズを一寸でもかじったものならばこれは勘弁してほしいとなるに違いない。スポーツ根性映画の変形ではあっても、もう少しその音楽への愛が感じられなければ映画として駄目。女子高校生達がスイングジャズに励むあの映画「スイング・ガール」にはジャズする歓びが全編にあった。憎しみが歓びに変る瞬間、それが垣間見れれば...。と言った所で久々のジャズ映画は期待しただけに失望も大きかった。だが鬼軍曹役のシモンズは、賞を取っただけに流石の熱演ではあるが、肝心の指揮は決まっていない。

 
ただこれはあくまでもぼくの感想。映画批評家は概ね好評で、ここ10年ぐらいの音楽映画としては、ベストの1作などと讃える人もいる位なので、実際どうなのか皆様もご自身の目で確かめられたらどうでしょうか...。

【今週の番組ゲスト:「JAZZ TREFFEN2015」の企画担当 ドイツ文化センターの小高慶子さんとSONG X JAZZの宮野川真さん】
M1「Pastrale/Dieter Ilg Trio」
M2「Juuichi/Colin Vallon Troi」
M3「Copenhagen/Jakob Bro Trio」
M4「Asftaab/Cyminology」

JAZZ TREFFEN 2015(http://peatix.com/event/110397)」10月13日(火)、23日(金)、24日(土)、11月19日(木)、12月2日(水) 会場:ドイツ文化センター

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