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競馬が好きだ!

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昔「ZONE」で東大応援部の夏合宿に密着したドキュメントが放送された時でしたか、過酷な練習に耐える1年生が口にしたのが、冒頭の言葉でした。

メジャーエンブレムのNHKマイルカップで初めてGIを実況して、ハッキリ言えば「GIの高い壁」に叩きのめされてから4年少々。先週のオークスで初めてクラシック、旧八大競走を実況しました。結論から言えばまたも「八大競走の壁」というものに叩きのめされた訳ですが、このブログで恒例?の振り返りを自分への戒めもこめて書いておこうと思います。

正直、今までのGIの中でもレース前に一番ピリピリしていました。注目度が高いのはどのGIでも同じですが、無意識のうちにクラシックを実況する、ということで責任感をなおさら感じていたんでしょう。登録が出たら、まずは出走馬の「枠順なしの塗り絵」を作っておき、ひたすら読むところから。そして1頭ずつ、資料を作っていきます。その過程で「その1頭にフォーカスしてレースを見る」ということを入念に今回はやりました。桜花賞はこの2週で50回くらい見たでしょうか。


(出走可能な枠に入っている馬の服色だけ塗った塗り絵。これをひたすら音読してました)

最大の焦点は、圧倒的な強さで桜花賞を差し切ったデアリングタクトが実に63年ぶりの「無敗の牝馬二冠」なるか。ただ、重馬場だったことがどう出るか。実際、桜花賞のレース後の2着以下の関係者のコメントを読んでみても、あの道悪に持ち味をそがれてしまった...というものが多数。加えて、この春も東京の芝はそう簡単に先行した馬が止まらないレースが多数。そこに「折り合いさえつけば距離は大丈夫」というデアリングタクト陣営の見解を見てみても、2400mになるここでいきなり出して行くようなレースは考えにくくなりました。

そして別路線を勝ってきた組も、上がり32秒台でスイートピーステークスを差し切って連勝のデゼル、何より先行してしぶとく脚が使えるフローラステークス組のウインマリリン、フラワーカップ勝ちのアブレイズと多彩。結論としては「デアリングタクト1強ではない」。追い込み脚質である以上、取りこぼす、脚を余すリスクはついて回る。明らかに世代で圧倒的に力が抜けていた(はずの)ハープスターでも、桜花賞で負かしたヌーヴォレコルトを差せなかったのだから―。なぜここまで考えていながら「徹底的にマークされるリスク」を頭に入れておかなかったのでしょう。今にしてみれば、ですが。

そして枠順を見た時、デアリングタクト、デゼルと人気を集めそうな2頭は内枠へ。スマイルカナが逃げ宣言した以上、隊列はすんなり決まって序盤の状況整理はやりやすいはず。どこかで外に出すのか、それとも待つのか。あくまでもフラットな目線でも、そこは見落とさないようにとは考えていたのです。


(オークス当日の朝。いい天気だったんですよ...)

当日は10レースまでは「GIデーにありがちな緊張感」で済んでいたものの、いざオークスの馬名を覚え出すと、一気に胃がキリキリしてきました。やはり、いつものGI以上に気持ちが張り詰めていたんでしょう。直前で見るとデアリングタクトが単勝1倍台。やはり組み立ての中心にはと思っていたのに。

いざスタートした瞬間、ガクンと躓いたように緑の帽子=リリーピュアハートが後ろからになったのを見て、無意識のうちにそれを言っていました。結果論ですが、常々「相対的に上位に来る確率が高い以上、好スタートを切った馬を極力言う」というポリシーを持っている人間がそれを出来なかった時点で、ある意味【決まってしまった】のでしょう。もしくは、断然人気ならとデアリングタクトに意識を集中させていればどうだったか?

すんなりスマイルカナが先手を取り、前に行きそうな馬も予想通り割合前にいたので、まず1コーナーで確かめるとデアリングタクトとデゼルはやはりじっくり後ろに構える形から。道中でこれが外に出てくるようなら、と思っていましたがインから離れていなかったので、あまりここに拘りすぎない、ととっさに決めて最後方まで追ってから勝負どころへ。デアリングタクトが馬群から出ていないんだな、というところまで言って確認して直線へ向かいました。

直線。クラヴァシュドールが前に出たところで、16番枠だったウインマリリン=横山典弘騎手がうまく内に潜り込ませて、インを狙っているように見えて、外に持っていったのが道中でラチ沿いに入っていたウインマイティー。1列後ろの内目で脚が残っていそうだったホウオウピースフル、これも外に切り替えていたアブレイズ。この辺り、馬場の三分どころくらいにいた馬の捕捉までは良かったのです。

結果的に分水嶺だったのは次。「外伸びしてきそうな馬を早めに掴まえておきたい」と、馬群の一番外からチェーンオブラブ→デゼル→リアアメリア→マルターズディオサと徐々に内に目線を移しながら追っている時でした。馬群の中にいたはずのデアリングタクトが、すでに先頭まで飲み込む勢いでぐんぐん前に迫ってくるという状況になっていたのです。「しまった、完全に掴まえるのが遅れた...」。正直焦っていました。

ここで「先行、内が有利になりやすい馬場傾向である以上、ロスを少なくしている(であろう)馬群の内側にいる馬」からという意識でいれば、デアリングタクトにあと2秒は早く触れられたでしょう。なぜアブレイズの次に、一気に飛ばして大外へ行ってしまったのか?すぐ隣でデアリングタクトが何とか捌いて出よう(としている)という状況だったのに。

「馬場傾向からして、簡単に外差しは決まらない」というファクターを甘く見ていたのと、デアリングタクトという断然人気の馬を早く直線半ばでも探す意識が薄れていたのが原因でしょう(厳しいマークを受ける立場でそれをどうかいくぐるか、という事への意識があれば防げたはず)。結果それは「なかなか外に出せなかったデアリングタクトが、馬群を捌いて一気の加速で前に迫り出す」という、このレースで最大の肝になった部分を「リアルタイム」ではなく、「数秒遅れの後追い」で言うしかなくなってしまうという、大失態につながりました。

この遅れはさらに「ウインの2頭に触れる時間がなくなる」という悪循環につながり「抜け出しているウインマイティー」という、ゴール前で事実と全く違う「1,2秒前」の事を言ってしまいました。先頭争いは既に抜け出せるような脚、というよりは「競っているウインマイティーとウインマリリン」にこの段階で変わっていたのに、です。明らかに最後はデアリングタクトが抜けていたので「デアリングタクト二冠達成ゴールイン!」で締められたものの、その前の20秒ほどはお粗末の連発でした。

大阪にいた頃、藤田直樹さんからよく言われていた私の弱みは「お前の実況はいつも後追い。とっくに抜け出した後に抜け出してくる、なんて言ってるんやからな。聴いている人にいつも嘘をついとる」という事でした。「実況は『起きている』ことを言うもので、『起きた』ことを言うものではない」。

だからこそ、馬がゴールした時に「ゴールイン!」と言い始めるのは「実況」ではない。「ゴールイン!」の『ン』の音が出た瞬間に、先頭の馬の鼻先がゴールにかかるように言うのが実況だ―。何年経っても結局弱点は抜本的に改善されていないという事実は、初めて実況する八大競走のゴール前、という追い込まれた状況で炙り出されてしまいました。

ただ、タイトルではないですが「追い込んで、挑んで、やり切った」から色々「見えた」とも感じています。正直あれだけ「無我夢中で実況する」という感覚になったのは久しぶりで、そんな状況で自分の今の力量は、明確に映し出されました。

レースの本質を見抜き、言葉にする力は全く足りていない。甘い。GIは実況する人間の技量と品格、日常の振る舞いから厳しく問うてくる。今回もそうでした。しっかりと糧にして、また次に進んでいかないといけませんね。何より、63年ぶりの快挙達成の瞬間を実況できたことは、自分にとって大きな財産になった事は確かです。デアリングタクト陣営の皆様、本当におめでとうございます。


(使用後の塗り絵と、1頭ずつ作った資料のデアリングタクト分)

さて本題。今日の「競馬が好きだ!」では、明日浦和競馬場で行われるダートグレード競走=さきたま杯の話題を中心にお送りします。中央競馬のダービーがやってくれば、地方競馬もダービーのシーズン。お楽しみに!

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