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競馬が好きだ!

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こんばんは、大関です。昨日から4連休という勤務シフトなんですが、色々文章を書くタスクがあるので今日も結構な時間キーボードを叩いていました。テレワークって簡単じゃないですし、良い事ばかりとは言えないようですね(意味深)。

先週は東京競馬場へ。3年連続でフェブラリーステークスを実況してきました。当日は穏やかな陽気で、スーツの上にコートを着なくても大丈夫なくらい。毎回GIの実況前というのは精神的に張りつめてくるモノですが、一段とそれが強まっていたような気がします。

1月の若駒ステークスのファンファーレ後の「例の一件」と言い、その後の中継進行をしている最中の一件と言い、どうも自分の無意識の所で「仕事における危機感が緩んでいる」と取られても仕方のない事態が多かったからです。そんな「緩み」を持ったままGIの実況に入ってしまって、「魔が差した」ならば何が起こりうるか?どんなに経験を積んでいようと、ある意味実況アナウンサーとしての地位も、評価も、一瞬のうちに崩れ去ってしまう事もあるーというのは歴史も証明しているはずではないか―。そんな訳で最後の1週間ほどは「自分で自分を追い込む」という意識を強くしていたのです。私のような根の甘い人間は、相当やらないと火事場の馬鹿力は出ませんから。

まずは、レースの核になるであろう部分を考えることから。チャンピオンズカップで1・2着を占めたクリソベリルとゴールドドリームはサウジカップへ向かい、東京大賞典を勝ったオメガパフュームや、川崎記念を勝ったチュウワウィザード、東海ステークスを勝ったエアアルマスも不在。自然と注目は連覇を目指すインティ、そして初ダートの前走根岸ステークスで驚きの走りを見せたモズアスコットに集まって行きました。しかし、インティは去年マイペースの逃げを打って押し切った立場。果たして今年、同じような逃げを許されるのか?同様に逃げ馬として連覇を狙ったトランセンドが2012年には逃げられず、テスタマッターシルクフォーチュンの追い込みに屈して沈んだという歴史を振り返ってみても「インティがそう簡単に逃がしてもらえるとは思えない」というイメージになって来たのです。

金曜、枠順を見渡せばインティの内にはワイドファラオ。過去の重賞2勝は逃げ切りで、初ダートで逃げ切ったユニコーンステークスなどは、相当なハイラップを粘るという勝ち方でした。これは内から突っ張る可能性も十分にある。前哨戦を見ても揉まれなければいい、とインティが引く可能性があっても、流れは去年よりは緩まないだろうと思えてきたのです。


(GI前に作っている資料。1頭につきB5の紙1枚にまとめて作ってます)



(穏やかな好天に恵まれたフェブラリーステークスの朝)

結論は「インティが逃げるかどうかが焦点。ただし、今年は後方組が台頭する可能性が、去年よりは相対的に高い」という構図。あとは初ダートのモズアスコットがどこを取れるか。この2点を特に意識して組み立てる事にしました。

いざレース。ゲートが開いた直後、桃色に緑の服のケイティブレイブが少しだけ好スタートで前に出ているのを見て、それを反射的に言ってから隊列の描写へ。内からワイドファラオ、アルクトスも主張してインティは控える形になり、差しタイプのヴェンジェンスも今日は前め、モズアスコットも今日はスタートを決めて無駄に脚を使わず中団から。実はここで、ミッキーワイルドがインティの外にぴったり重なっているのに気づかず、道中で追い損ねていたのです。結果的に4コーナーで見えていたから一度は言えていたものの、気付けなかったと言うのは...。

そして、後付けでもこれは反省。差しタイプの8枠2頭が道中で早々と「内ラチ沿いに寄っていた」というファクターを言うことで伏線を張れなかった(回収できるかはこの時点では分からないにせよ)事です。ケイティブレイブは久々のマイルでも「思い切って脚をタメる競馬をする」と陣営が表明しており、ワンダーリーデルも差しタイプ。しかし、横山典弘騎手はこんな条件下でも芸術的な進路取りで、外枠からでもスッと内ラチ沿いに寄せてロスを少なくする「腕」を持っていることはここ数週の騎乗ぶりで驚かされていました。クリノガウディーやアカノニジュウイチで証明したように。しかし、縦長でばらけたとは言え内ラチ沿いに寄っていることを流して追ってしまった、これは「あの実況は何や!!」と怒られても仕方のない事です。

実は大阪時代、藤田直樹アナから口酸っぱく「未勝利には未勝利の、前哨戦には前哨戦の、それを踏まえたGIにはGIの道中の馬の追い方がある。それを意識して使い分けて実況できるのが、プロなら当然や」と言われていました。当時はGIを実況した経験がなく、ピンと来ないというのが正直な印象でしたが、この言葉の意味合いと重さをこれだけ教えられたGIは初めてかもしれません。

もしあそこで「内ラチ沿いにつけた」という一言をケイティブレイブやワンダーリーデルに加えていれば、直線伸びてくる時に「外へと持ち出した」ピンクの帽子2頭、という描写につなげやすくなり、「アウト→イン→アウト」という無駄のないコーナリングでロスを少なくして、スムーズに伸びた差し馬2頭、というレースの肝となる部分が、点ではなく線でつながって捉えられた、より質の高い実況になっていたのです。勝ったモズアスコットに関しては、4コーナーで位置取りを探して馬群の内めにいると整理し、「好位馬群のインから直線で外へ持ち出して抜け出す」という捉え方(=「この3頭の外に持ち出して」という描写)につながったのが、せめてもの救いでした。

そして、直線で8枠2頭が追い込んでくるのが見えた瞬間。「あっ、長岡騎手が初GIでもしかしたら...!」という思いから、馬名と騎手の名前を両方言っていました。これは事前には考えておらず、流れの中で反射的に出てきた言葉です。しかし、後で聴いてみると、「長岡禎仁」の「お」の音が、甘い発音になって出てしまっていました。何となく「なが『あ』かよしひと」に聴こえてしまう。肝心なところで出てしまった失敗。やっぱり、自分はアナウンスの基礎がまだまだ甘いと告白したに等しい失態でした。

これも大阪時代、1音ずつ口の形への意識が甘くなれば藤田直樹さんに「大関、あの馬名を口に出した時、あの発音でその口の形は何や?どの母音の口で出してたのか俺にはよう分からんわ」と、朝の馬名チェックから容赦なく指摘が飛んできた頃の意識が緩んでいる、という現実を突きつけられた思いでした。肝心な所で、何より騎手と馬に申し訳ない事です。

ゴール前から直後は、モズアスコットが完全に1頭抜けていた事もあり、3着争いまでの整理からウイニングランまで、割合(あくまで今回は)冷静だった、ような気がしています。それもお客様が判断することですし、ゴール前であのように騎手の名前を入れたことも「場内実況ならあくまで贔屓はせずイーブンであるべきで、肩入れする(ようにも聴こえる)実況は如何なものか」と言われれば、反論はできません。反省点はまだまだ山とあります。


(使用後のフェブラリーステークスの塗り絵)

ただ今回も、とても勉強になることであったことは確かです。「大レースの実況はその人の技量と品位を厳しく問うてくる」と痛感するのは今回も同じでした。ここで得た教訓をもとに「そこから、どうするのか」をファンの方々は厳しく見ていると言い聞かせて、今週末からまた仕事に当たろうと思います。

という訳で今週の「競馬が好きだ!」もお楽しみに!今日のオンエアでは、またNARグランプリで収録してきたインタビューもお送りしていますよ! 

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