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聴く第24回「遠隔医療で活かされるテクノロジー」(2017年6月20日放送分)


<出演>
マスター:明石 秀親(国立国際医療研究センター)
藤沢:藤沢久美(シンクタンク・ソフィアバンク代表/常連客)

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【新興国・途上国の医療事情】

マスター:藤沢さん、いらっしゃいませ。今日は雨だったから大変ですよね。

藤沢:そうですね、でも雨がないと植物も育たないので、前向きに雨をとらえようと思っているんです。

マスターは最近、サウジアラビアに行かれたそうで。

マスター:これはお土産のデーツっていうんですけれども、どうぞお食べください。お客様に差し上げています。

藤沢:ありがとうございます。デーツを食べるなら・・・マスター、サウジコーヒーをぜひ今日はお願いします。

サウジっていうと新興国と呼ばれる、途上国の次の、成長している国ですよね。
そういう新興国とか、アフリカなど途上国の医療の現場って、どんな感じなんですか?

マスター:そうですね。サウジはもう進んでいますね、日本以上のところもあるし。
一方、途上国といわれているところは、地方に行けば行くほど医療従事者がいない。
全体として医療従事者がいない場合もあるし、配置が・・・地方に行きたがらないところもあります。

薬も入ってこない場合もあるし、入ってきてもすぐに使い切っちゃって、あとは欠品ということもありますし、それこそ電気・水道も含めて、検査ができるのか、診断・治療ができるのかということもありますね。
それから、道路が悪いとか、そもそもないということですと、中央からそこに行くのも大変だし、住民の人たちがそこに行くのも大変ということもあります。

藤沢:医療にアクセスができないという国々に対して、医療協力をする。
それが国立国際医療研究センターのお仕事でもあると思います。そのお仕事の中で、前回もすごくマスターと盛り上がったのがITの話で、ITって、途上国などの医療のサービスに使えると思うんですけれども。

マスター:ITがそんなに発達していなくて、例えば医療施設に来られないという場合。

医療施設そのものが、もっと住民の近くにあればよいわけで、作ればいいんでしょうけれども、先ほどお話したように、人がいない、物がないというときに別の解決策としてあり得るのは、アウトリーチといって医療施設からチームを出して、住民のところに行く。

往診の場合、頼まれたから行くということですが、最初からプランしてまわりましょう、とかね。

藤沢:巡回サービス?

マスター:そうですね。あとは巡回で、中央から地方の医療施設に行く場合もある。
モバイルチームみたいなね。例えばザンビアではエイズのチームを派遣しましょう、といったスペシャルなチームを派遣する場合もあります。
それはかなり「人界戦術」・・・という言い方は変かもしまれませんが。

藤沢:そうですよね、人がわざわざ車で行くという。ITはあまりいらない。

【様々な遠隔医療のかたち】

マスター:そう、今はITとか、インターネット系ですよね。遠隔地とつなぐということが、普通にできつつある。スマートフォンが普及している中で、いままでにはないつなぎ方の素地は出来てきていると思います。

藤沢:日本でも遠隔医療を、そろそろやりましょうかという話が出てきています。まさにそういう途上国だと、スマホを使ってお医者さんに診断をしていただくことはできるんでしょうか?

マスター:例えば「医者がいません。でも看護師さんはいます」という場合。

看護師さんに医師的な行為をやってもらう、これをタスクシフティングというんですが。例えば、検査の機械がありますと。医者だけが使えるんじゃなくて、例えば看護師さんも地方だったら使っていいことにしましょう、というように診断そのものをやってもらう。

ただ、次の問題として「診断ができるのか。ちゃんと訓練受けていませんよね」となる。そういった場合には遠隔医療で訓練をする。あるいはその画像なり検査結果を診断ができるところに送って、結果を送り返すといった双方向のやり方もあります。

藤沢:日本だと患者さんとお医者さんとが直接、テレビ電話でつながるというイメージがありますけれど、その前の段階で、看護師さんとお医者さんとか、現地にいて専門性のないお医者さんと、専門性のあるお医者さんがテレビ電話とかスマホでつながるとか、インターネットでデータを送ることで、お医者さんがお医者さんのサポートをする。それも遠隔診断のひとつのかたちですね。

マスター:医療従事者と患者さん、あるいは住民をつなぐという形もあり得ます。画像で見てわかるものとか、ウェアラブルなバイタルサインといって血圧とか脈拍とか呼吸器とか、そういうデータを送りながらやりとりする、というかたちもあります。皮膚病とか、そういうのは比較的やりやすい。

藤沢:マスターは遠隔医療のことについても、海外でサポートしているんですか?

マスター:NCGMでは、ドローンを使って、薬や輸血・検査の検体をやりとりするような試みに支援することは始めています。

藤沢:データで送るんだったら物はないけれども、物も届けなきゃならないですもんね。道がないとか、ヘリコプターを飛ばさなきゃいけないんじゃ大変なことになりますもんね。

物をドローンで運ぶ。それはどこでやっているんですか?

マスター:ザンビアというアフリカの国でやっています。日本の企業だけじゃなくて、他国の企業も始めています。

【ITを使った研修や人材育成】

藤沢:日本ではドローンの技術をどんどん磨いている会社もあるし、JICAさんみたいに「困っているところがあれば助けに行きます!」という組織があるけれど、大体そういうものの課題って最後は「どこに行ってそれをやろうか」とか、「どう段取りを踏んでいったらいいか」というところ。技術もやる気もお金もあるのに役に立てないことがある。けれど、マスターの研究センターは最後の一番の壁になっているところの解決策を持っているということなんですね?

マスター:提供できる場合もあります。あるいは、イーラーニングみたいな形で、技術なり診断方法なりを人材育成として使ったり、あるいは途上国とつないで、例えば小児科とかの症例についてカンファレンスを通じて技術を向上させたり、といったことはやっています。

藤沢:日本にいながら途上国の人たちに、アドバイスや支援ができるという。

マスター:そうですね。専門家がずっと居続けるわけにもいかないですし、一方研修にいらっしゃった方も、数としてはそんなに多いわけではないですね。ですから定期的にインターネットを通じて支援というか人材育成をすることもありますね。

藤沢:そういう意味ではITというのは、置いてけぼりになりかけてた途上国に対して、救いの手を差し伸べているということになりますよね。

マスター:以前は、保健医療情報は紙ベースでした。例えば予防接種を何人やったとか、あるいは外来患者さんが何人いたかとか。その紙ベースの情報をコンピューターに入力しましたといっても、それはコンピューターの中にあるだけなので、結局中央では「一体何人やったんだ」と。そうすると紙で運ぶなりして、それを集計しなおすので、間違いも次々起こる。間違いがつながって集計されるだけで、国全体で今何が起こっているのかわからない。そうすると、国や県としても政策を作りづらい。

【母子手帳の電子化】

藤沢:母子手帳の電子化というのがあると聞いたんですが、これもそういう意味では国が把握するのに役に立つんでしょうか。

マスター:実際にJICAさんがパレスチナで母子手帳の電子化をやりました。

母子手帳って面白いプロセスというか仕組みだなと思うんです。家族が自分の子供のデータを持っているわけですよね。それで、その人が別の医療機関に行ってもそれを提示できる。自分が持っているデータを自分が運んでいるので、それを見れば他の医療機関でも、今まで全く受診していないとしても、「今まであなたはこういうことになっていたんですか」と。そのことがわかる。それからもちろん健康教育的な内容も入っています。

それなのに、例えば地方自治体を移っちゃうと、行政のサービスが途切れちゃうということがあり得るわけですね。しかし電子化することによって共有化ができるので、行政サービスにもアクセスしやすい。

藤沢:母子手帳ならずとも、いろんな医療データがお医者さんにもあるけれども、本人の手元にもある程度残るというかたちのものって、進んでいくと、常に自分に合った医療や投薬を受けられるという意味では、すごくいい話ですよね。

マスター:おっしゃるとおりだと思います。

【途上国で磨いた技術は日本に逆輸入できる可能性も】

藤沢:お話を伺っていると、遠隔で医療するとか、遠隔でお医者さんのサポートとか、トレーニングするとか、ドローンで薬を運ぶとか、日本も今からやろうかな、みたいなことが、その途上国といわれているところでもう進んでいて。日本より進んでいますよね?

マスター:こういうことかなと。遠隔地に医療従事者がいないんですと。ロボットが代わりにそこにいて、対面では普通にしゃべれて、「じゃあこういう検査を受けなきゃいけないですね」とか、診断のための検査ができるとか。もちろん血圧とか、脈とかは測れちゃうわけです。

日本の場合はかなり規制があって、まだそこまで進んでいないところもあります。でもいずれ、日本も人口が減ってくるし、世界的にも遠隔地のことをどうするかというのは、やはり問題です。なので、外国で手に入れた技術は、もちろん日本にも適応できるということが起こってくると思いますね。

藤沢:日本も山間地とか過疎化しちゃったところや、お医者さんがいなくなったところなど、どうやって医療サービスをするかが問題になっていますよね。逆にそういう途上国で遠隔地に対してどうやって医療サービスするかって、いろいろやっていけたら、ノウハウを逆輸入できますね。

マスター:リバースイノベーションみたいな。

藤沢:まさに。マスターの国立国際医療研究センターって、海外の途上国の支援をしているようにみえて、実は日本の未来を先に研究開発している感じにも見えますよね。

マスター:そう言っていただけるのは初めてです。

藤沢:だからこそ大事なお仕事というか。どんどんイノベーティブでより良い医療サービスを、ITを含めいろんなものを使って、どう作ったらいいのかっていうことにチャレンジするための、そして一番きめ細かい現場の部分の調整をして反応をみていくっていうお仕事だから、国立国際医療研究センターの立ち位置って、私が聞いていると面白いなぁと思って。現場の最後の調整のところもやられると同時に、現場のニーズがわかっているということですよね。何が足りないとか。

実は日本でものづくりをやっている人たちって、技術がたくさんあって。なんとなくテレビで途上国の状況を見て、「うちの技術を使ったらこういうの何とかなるんじゃないか」というところまでは行くんだけれど、具体的にどういうニーズなのかまでは細かくわからない。だからマスターたちから「具体的にこういうニーズがあるんです」と言われたら「ああ、じゃあうちの技術をこう使えばいいじゃない」という、やっと役に立つところに近づけるというか。

マスター:実際に今、連携しているところが。医工の連携ですね。

藤沢:そうそう。日本医工ものづくりコモンズという財団法人。

マスター:そういうところと連携して、実際に途上国でどういうニーズがあるのかをお話する機会を設けて、実際に今、共同研究で機材を作るとか、そういうことが始まりつつあります。

藤沢:ものづくり企業にとっては、途上国に役に立つなら、心ある人はボランティアも含めてやっていこうと思うけれども、ずっとボランティアだと困りますよね。

でも「これ将来日本に逆輸入で入ってくるかもしれない」と考えたら、「これはある意味投資だ」と思えば積極的に関われる。

この番組をお聴きのものづくり企業のみなさん、一度マスターをゲストに招いて、途上国で何が起きていて何が足りないかをマスターから学ぶ会とかやると、ビジネスアイデアがいっぱい生まれてくるかも知れないですよね。

マスター:なんともいえませんけど。

藤沢:じゃあ今度、マスターのお店でやりますかね。コーヒーもたくさん置いてますし。いかがでしょうか。

マスター:ははは。なるほど。このカフェで。

藤沢: 今日も勉強になりました。

マスター:こちらこそ。

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