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聴く第21回「公衆衛生危機と日本の国際医療協力」(2016年12月20日放送分)


<出演>
マスター:明石 秀親(国立国際医療研究センター)
藤沢:藤沢久美(シンクタンク・ソフィアバンク代表/常連客)

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【今年を振り返って】

明石:いらっしゃいませ。藤沢さん、今日もムパンガナチュラルですか?
藤沢:そうですね、今年最後になっちゃうかも知れないから、やっぱりムパンガナチュラルでお願いします。
明石:すごいですね、お好きですよね。
藤沢:やっぱり美味しいですよね。
明石:いつの間にか年の瀬になっちゃいましたけれども。藤沢さんにとって、今年はどんな1年でしたかね。
藤沢:今年は私にとっては、すごく印象深い1年で。といいますのも3年前から、実は温めてきて準備してきたプロジェクトがあるんですね。2020年に東京オリンピック・パラリンピック。その前はワールドラグビー。その後ワールドマスターズとか、日本ですごく大きな国際スポーツイベントがあるんですけど、それに向けて、実は今年の10月にキックオフとなるイベントを文部科学省と一緒にやったんです。世界から、例えばスポーツ関係大臣とか、副大臣とか69カ国に参加していただいて。IOCのバッハ会長とか、みなさん来ていただいて、その大きなイベントをやったので、私としては官民でこの大きなキックオフイベントを出来たっていうことで、すごく印象深い。
明石:すばらしいですね。
藤沢:がんばったな、私!って。ちょっと、そんな1年だったんです。


【グローバル化と感染症対策】

藤沢:国際会議で、実際には全体で5千人くらい参加した会議で。
明石:5千人!
藤沢:はい。そのうち、やはり数百人は海外の人なんですね。こうやって海外の人たちといろんな議論を、これからはしていかなきゃいけないので、まさに日本は何をするべきか、とか、そんな議論をしていたんですけれど、ひとつ大きなそのグローバル化という中で、新興国とか、アフリカとか、そういう国々に対して、日本がスポーツや文化やビジネスを通じて、どうやってサポートをしたり、逆にどうやって学ばせていただいたりとか、できるのかなぁなんて議論をしていたんです。
明石:はい。
藤沢:そんな中でひとつ話題になったのは、まさにマスターのお得意分野ですけれども、これからいろんなパンデミック。なんて言うんですか?感染?
明石:感染とか流行とか。
藤沢:そいういうことを、これからどうするかというのも、スポーツ大臣の人たちと話題になったことのひとつなんですね。確かにリオのオリンピック・パラリンピックがある時に、ジカ熱がすごく話題になりました。「妊婦さんは行かないように」とか、できるだけブラジルには行かないように、みたいな報道があって。実は私たちもこのワールドフォーラムをやるときに、何かそういうことが起きたら、来ていただくべき大臣が来られなくなるんじゃないかという不安があって。何か世界で一緒にやろうというときに、こういった伝染病というのが意外に、このグローバル化でいろんな仕掛けをやっていくときの大きなリスクになるんじゃないかということが話題になったんですよね。このへんはどう思われます?

【交通網の発達による感染の拡大】

明石:ひとつはエピデミックというか、何かの感染症、例えばジカみたいなのが、爆発的な流行をするというパターン。
もうひとつは、みんなが集まることによって、感染が広がっちゃう。それをマスギャザリングといって、例えばメッカ巡礼とかですね。あるいはこういうオリンピックなんかもそうなんですけれども、そういういう時に大流行するというのが問題になりうる。
もうひとつは、おっしゃるように大流行といっても、例えば何年か前にエボラ出血熱がはやりましたけれども、昔は森の中の一地域に限定していたんですね。それが外に出てきて広がるっていうのはあまり想定していなかった。ところが世界的に、交通網が発展して、例えば陸上では車での移動が簡単になったこともある。それだけじゃなくて飛行機で来るということも簡単になってしまった。
昔は船で揺られて時間をかけて移動していましたので、病気を仮に持っていても、船の上で発祥するものは発症しちゃって、検疫でおさえるというような動きができたわけです。今はいわゆる潜伏期といって病気も何も症状的には出ていない時期に、世界中を移動できる環境になってしまった。そういう意味で昔よりも大きな問題として取り上げられる。そういうのを公衆衛生危機と言ったりします。そういうことが起こってきているということだと思います。
藤沢:公衆衛生危機って、これは新しい言葉なんですか?
明石:比較的、概念としては新しいと思いますね。
藤沢:今までだったら他にうつらないような病気が飛び地のように発生したり。
明石:そうですね、ですからエボラの前、記憶に新しいSARS。
藤沢:ありましたね。
明石:みんなマスクして、とにかく外に出ないように、あるいはどこかに行かないようにしよう、ということになった。ああいうのも、(感染症が)ある国に限局しているんじゃなくて、国から国に、人々が無症状の時期に移っちゃって、そこでいつの間にか広げちゃって、うつった人がまた次の国に行くという。そういう動きでしたよね。だから高病原性のインフルエンザとかが日本に上陸するということで、(対策のために)成田や羽田に私も行ったんですけれど、昔よりも感染症に対して脅威を感じやすくなってきている。

【経済にも影響を及ぼす】

藤沢:確かに!最近私たち女性で子供がいる人たちなんかは飛行機に乗るときに、マスクなどで完璧に防御する人もいます。飛行機の中で何かにうつったら困るから、といった心配をしている人もたくさんいますよね。でも、それ以上にビジネスという観点から考えると、ある地域でそういう病気が発生したということになると、そこの地域に行くのはやめようとか、ビジネスをとりあえずストップしようとか。感染症が大きいところには飛行機を飛ばすのをやめようってなるじゃないですか。客室乗務員の人たちがうつりたくないから、飛行機の仕事をボイコットします、ということもかつてあったような気もするので、さっき公衆衛生危機という新しい言葉を教えてもらいましたけれど、単にいろんなところでいろんな病気が起きるというものではなくて、経済も止まっちゃうかもしれない。
明石:そうですね。実際にSARSのときも、WHO(世界保健機関)が「怪しいのが流行っているらしい」といったことで渡航自粛を出すか出さないかというのは、非常に大きな意味を持つ決定なんですね。それが出たがために、コマーシャルフライトが普通に止まってしまう。それは人の行き来だけじゃなくて物流もとまっちゃう。誰かが病気になるならないの話だけじゃなくて、もっと広い。経済もそうだし、政治的にそういう宣言は出さないでくれということもありうるわけですよね。単に医療だけじゃなくて、政治の問題であり経済の問題でもある。
藤沢:ある分野の人から見ると、もちろん公衆衛生上ストップしたほうがいいっていう気持ちがある反面、自分たちのビジネスとかを考えると、それをやってしまうとわが国の経済がしばらく低迷してしまう、みたいな外交問題とか、経済がダメになっちゃうから多少の病気は許してもいいんじゃないかとか。そこの戦いというか、調整というか。
明石:かなり難しい判断を迫られる。例えばそういうのが出ちゃった国にとっては、宣言を出して欲しくないと思うかも知れないし、でもこのまま広がっていっちゃったらどうなるんだろう、みたいなね。保健当局と、外交当局の、経済当局の間のジレンマかもしれないけれども、それだけじゃなくて個人的にも。

【医療チームに関する基準】

藤沢:そういうことが起きたらどうするかということを、ある程度、何も起きていないうちから議論して、シュミレーションしておくことってすごく大事かもしれない。
明石:そうですね。今、とりあえず動きとしては、地震とかそういう災害の場合は、EMT(エマージェンシーメディカルチーム)っていう医療チームが出る。そういう医療チームはどういう人たちが構成して、どういう能力がないといけないかっていう、今、世界的な基準がもう出来ているんです。今度はそれを公衆衛生のほうにも、特に感染症についても作ったほうがいいんじゃないかっていう議論があってですね。WHOが中心となって作っている最中。昨年から動き出していますね。
藤沢:お医者さん自体も新しい勉強をしなきゃいけない。
明石:そうですね。
藤沢:ちなみに、こういう感染症とか公衆衛生危機に関連して、マスターも黄熱病の調査団とかに行かれたんですか?
明石:はい。日本はですね、エボラのときもそうですけれども、人的な、人をたくさん出すとかいう動きは、実際にはしてこなかったということがあって。まぁ、SARSの時なんかは人を出したりもしていますけれども、そういう中で、やっぱりその対応できる体制が必要なんじゃないかという議論が昨年くらいからありまして。実際に、これまでの災害対応というのは、国際緊急援助隊というスキームがありまして、それはJAICAさんが事務局になってやっているんですけれども、それだけでは不十分だと。要するに感染症にも対応できるようなチームにしなきゃいけないんじゃないかという議論があってですね。昨年の確か10月に日本にもチームができました。チームとして出来たんだけれども、先ほど言ったように、特殊な技能なりを習得している必要があるとかですね。もちろん習得している人もたくさんいらっしゃるんですけれども。それだけじゃなくて裾野を広げてですね。自分が空いていれば出動できますけれども、日々の診療とか当直とかで行けない人もいるわけで。
藤沢:ということは、援助対のチームというのは、よく考えてみれば、いつも感染症が起きているわけじゃないから、感染症専門のお医者さんというわけじゃなくて、日ごろ普通の医療従事をしている人が、そういう知識も身につけて、チームの一員になって緊急援助隊として活躍するって、そういうかたちなんですか?
明石:それもありますし、感染症にスペシャリストな人もたくさんいますし。ただその、感染症スペシャリストっていう人がたくさんいるかというと必ずしもそういうわけではないので、そいういう人たちも含めて、みんなで技能を高めるというようなことが必要なわけですね。そういう意味でもチームができたんですが、それに対して訓練というか研修みたいなものも、始めるということが、昨年の終わりからやってきている。そういう中で、エボラがある程度、治まってよかったんですが、次の感染症に対応できるのか。やはりその感染症に限らす経験が必要ですから。なるべく経験する機会があったほうが良いんですが、じゃあすぐに出せるかというと、そういうわけでもないですね。それで実際に先ほどジカの話が出ましたけれども、ジカも調査団は出たはずなんですが、実際には本体を送るということにはなっていなくて。
それが今年に入って、アフリカ、特にアンゴラとかを中心に黄熱病が流行りだしたと。それが今度は隣国のコンゴ民主共和国に広がったということで、コンゴ民主共和国のほうも、支援が欲しいというようなことが要請されたと。そういう中で日本には何ができるか調査しましょうということで、私も仲間に入っていってきました。

【日本の水際作戦】

藤沢:これからオリンピック・パラリンピックもあと4年でやってくるわけですけど、すごく心配なのが、日本の水際作戦というか。この間、感染が世界的に広がるアウトブレイクみたいな、そういう映画を観ていたら、いきなり日本で感染症がすごく広がって世界が大変なことになるという話で、ショックを受けたんですね。日本では感染症みたいなものが入ってくるときの水際対策って、どんな感じなんですか?
明石:疑い事例については、決められた機関病院に入れるようになっているんですよね。エボラのときも国立国際医療研究センターに疑い患者さんが運びこまれました。治療して、最終的にはネガティブだったんですけれどもね。そういうのが、主に空港、関西国際空港と、東京の成田・羽田のそばにはあるような形になっています。医療センターもそのひとつなんです。そのほかに、医療センターが例えば研修して、各県に機関病院を作るようにしています。そういうかたちで、検疫と協力しながらというのがひとつ。
もうひとつはマスギャザリングの話。東京都とか、医療センターの職員も、感染研も含めて、その話は始まっているはずです。
藤沢:さっきおっしゃったように飛行機ですぐ来れちゃうから、潜伏期間を越えて早く移動しちゃう。空港も通り越して、例えばこれからオリンピック・パラリンピックのキャンプ地って、全国各地にできるじゃないですか。いろんな国から選手がキャンプしに来て、ある日突然、感染症を発病しちゃったってなると、空港とかの近くにあってもしょうがないから、おっしゃるように各地域、地方でそういう取り組みが始まっているんだって聞いて、今すごく安心しました。
明石:始まっています。
藤沢:そうなんですね。やっぱりオリンピックに向けて絶対的に必要ですよね。
明石:そうですね。そういう危機感は、当局も含めてありますね。
藤沢:日本もどんどんグローバル化していきましょう、ということを日本が言わなくたって、グローバル化はもう避けられないことだし。世界の人たちもオリンピック・パラリンピックを機にたくさん日本に来たいと思う。同時に日本側もたくさんが来てくれると経済も元気になるから、来て欲しいって思っている中で、やっぱりこの国際医療協力って海外に対して協力しに行くのも大事だし、同時に国内で世界から人が来るときに、ちゃんと備えをしておくという両面から、めちゃくちゃ大事ですね。

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