お知らせ:

グローバルヘルス・カフェ

番組へのお便りはこちら

※音声はこちらからお聴きいただけます。
番組をオンデマンドで聴く
聴く第17回「ベトナムの地域医療連携─顔が見える関係づくり」(2016年2月16日放送分)


<出演>
マスター:明石 秀親(国立国際医療研究センター)
土井:土井 正彦(国立国際医療研究センター/看護師)
ヨーコ:香月 よう子(フリーアナウンサー)

※ 番組では、みなさまからのご意見・ご感想を募集しております。
※ 番組宛メール送信フォームより、ぜひご意見をお寄せください。
※ お寄せいただいた内容は、番組内でご紹介させていただく場合がございます。

■ベトナムでも大病院に患者が集中する

マスター:グローバルヘルス・カフェ、マスターの明石です。今日は、常連客のヨーコさんと、看護師の土井さんがあちらで話しています。早速聞いてみましょう。

ヨーコ:土井さんは、ベトナムに行っていたんですよね?
土井:ベトナムの北部にあるハノイという都市にいました。実際に働いていたのは、ハノイ市より北西部に80kmぐらい行った、ホアビン省の省病院と、そのホアビン省の保健局です。
ヨーコ:役所みたいなところで。
土井:そうですね。お役所です。
ヨーコ:今、マスター。土井さんがショウ病院って言ったんですけれども。
マスター:日本で言うとまぁ県に当たるのが省なんですけれども。
ヨーコ:省、小さいショウじゃなくて。
マスター:じゃなくてね。
ヨーコ:何々省のショウですね。
マスター:そうですね。まぁそこより下に郡病院とか、さらに下にコミューンのヘルスセンターなどがありますが、一方その省病院の上には、ハノイとかホーチミン市にある大きな病院、大病院があります。
ヨーコ:その病院は土井さん、どんな状況なんですか?
土井:ハノイ市の病院は、ハノイの人だけじゃなく、ホアビン省であるとか、そのほかの周辺省から患者さんが集まってきて、とても患者さんが多い病院です。一方、そのホアビン省の病院は、それほど患者さんが多くはなくて、ひっそりしている。
ベッドも空いているところがあったりするのが、この省病院の現状です。
そういう現状なので、まず省の病院の能力を向上する、強化するということで、研修できるような体制を作ったり、郡病院から患者さんを搬送する際に、適切に搬送できているのか、何か問題がないのかといった搬送のシステムを作ったのが主立った活動です。
ヨーコ:なるほど。大都市の病院ではないところの技術を上げるということと、それからその連携を強めていくというか、つながりを強めていくというか。まぁ、地域医療連携みたいなイメージになるんでしょうか。
土井:そうですね。ベトナムというのはシステムの国なので、地域医療連携というのはそもそもあるんですけれども、それがうまくいっていないところがありました。そこで、システムを動かすだけじゃなく、地域とうまく結びつけて情報共有をして、進めていくということをしました。
ヨーコ:なるほど。地域医療連携という言葉は日本でもよく聞きますが、マスターこれはすごく大事なことなんですか?
マスター:そうですね。特に下位病院といって、たとえば郡病院やクリニックなどでは、自分たちだけで全てできるわけではない。この人は手術が必要だなとか、そういう人たちをどこに送るのだろうとか、さらにもっと専門的な心臓などの病気に対応するときに、専門病院なり、上位の病院に送るということをしなければいけない。
ヨーコ:なるほど。逆に、周りの病院でなんとかなる患者さんが大きな病院に行ってしまうと、それも難しい問題になる、ということですよね。
マスター:そうですね。日本でも大病院に患者さんが集中しがちというのはあると思います。大病院じゃなくても診られる患者さんが大病院にどんどん集まってしまうと、逆に言えば大病院じゃないと診られない患者さんが後回しになってしまったり、時間がかかってしまったり、というようなことが起こります。ですからそういう意味でも適切なレベルで、適切な患者さんが診られるということが大事だと思います。

■ 「場を作る」ことからスタート

ヨーコ:土井さん、実際現地に着くと早速いろんな壁が見えてくるということなんですが。
土井:ベトナムというのは社会主義の国です。制度であるとか、規則であるとか、ヒエラルキーがとてもしっかりした国なんですね。そういうなかで、まずはその地域医療連携をする部署を病院に作って、そしてそこで働く人たちと一緒になって、連携をしていくという仕組みを考えました。
ヨーコ:ヒエラルキーとか制度がきちんとできているというのはすごく良いことのように聞こえますが。
土井:たとえばですね。会議に出ると、管理者、病院の院長先生や保健局の局長さんといった方が、がしっとその場を治めてしまっているので、会議の雰囲気が固まってしまう。だから自分の意見であるとか、状況をもっと説明してもらいたくても、それが出ない雰囲気になるということがありました。
ヨーコ:その地域医療連携指導室でしたっけ?これはどういったもので、どういうことをされていった
んでしょうか。
土井:その部署ではまず「場を作る」っていうことをやっています。いろんな患者さんの状況、病院の情報などをシェアする「場」です。下の病院から上位の病院に患者さんが搬送される際の情報を集めて分析し、患者さんが適切に送られてきているのか、医師が適切に診断したのかといったことをしっかりと見て、足りなければそれを研修やセミナーに生かすということを、その部署が企画して実施する。
ヨーコ:なるほど。要するにその、救急で搬送されてきたような実際の事例をよく検討したうえで、お医者さんがちゃんと診断できていたかっていう技術的なことなのかっていうことをまず調べるわけですよね。
土井:そうですね。

■ 現地のリーダーのモチベーションを上げる努力

ヨーコ:その「場」を作る際にどういったことに注意なさいましたか?
土井:我々はそこにずっといるわけではなくて、途中でプロジェクトが終わったら出ていってしまう、そこを去ってしまいます。ですので、我々が全部やるのではなく、ベトナム人である彼らのほうにイニシアチブを取ってもらって、そして進めていくような場や機会を作っていました。
ヨーコ:なるほど。じゃあ土井さんが陣頭指揮に立って「あれやれ、これやれ」ということではなかった?
土井:そうですね。
ヨーコ:その役目を担ったのはどういった?
土井:先ほどお話した地域医療指導室の長になる方、ベトナム人のその人物を中心に場を作り、研修を企画しました。
ヨーコ:その長の方はどんな方だったのでしょう?
土井:その方は、元々は歯科医でした。彼はなかなかその部署をうまく回していけなかったのですが、場を作る際、研修をやる際に準備から関わってもらったりして、なるだけ彼のモチベーションを上げるようなことをしました。
ヨーコ:モチベーションは高い人だったんですか?
土井:残念ながらその方はあまりモチベーションが高くなく、最初はプレゼンテーションなどもあまりうまくできなかったのですが、繰り返しやっていくうちに徐々にモチベーションも上がっていって、プレゼンもだんだんうまくなっていきました。
ヨーコ:彼が変わったな、と思った瞬間とかあります?
土井:そうですね。先ほどお話した、プレゼンテーションを何度も何度もやっているうちに、途中で堂々とやるようになっていたんですね。「あれ、どうしちゃったんだろう?」と思いました。
やはり彼自身が準備をしっかりやり、人の前で話をする際、特に会議では彼よりもずっと役職の高い方、管理者がたくさん揃っている中で、自信を持ってやる。そのことで彼のやる気が引き出されたんだなというのはありました。

■ 救急車が無くても臨機応変な対応ができるようになった

ヨーコ:そういった努力の結果、救急の流れも少しスムーズになってきたんですよね?
土井:そうですね。そういう研修をやって、どういった患者さんが送られてきたのか、誰が送ってきたのかというのを、救急の部署でわかるようになったんですね。そういうところも地域医療指導室はちゃんと把握するようになった。
ある救急の患者さんが送られたときのエピソードがあります。小児の患者さんでしたが、送る際に救急車が無く困っていた。そこで以前、上の病院で救急の研修を受けた救急医にまず相談をしてみようということになりました。その救急医に電話したところ、「早く送ってこいよ」と。しかし「救急車が無い」、そうしたら「じゃあ自分が行くよ、だから待っていてくれ」という感じで、その患者さんを迎えに行ってくれて、上の病院に送って行ったということがありました。
本来であれば連絡して、「よこしなさい」、で終わるのかもしれないんですけれども、救急のシステムを越えたような関係がこの地域医療でできたと、この例から感じられます。

■ 現地の人に溶け込んだ活動

ヨーコ:さあマスター、マスターもすごくベトナムにはどうやら詳しいらしいんですけれども、いまの土井さんの話を聞いてどう思いました?
マスター:地域医療連携というと何となく難しい感じがすると思います。最初は偉い人が訓示を垂れる、「こうしなければならん」みたいな演説っぽくなっていたかもしれないけれども、それを何回かやっていくなかで、ここって自由なことを言える、あるいは困っていることをお互いに共有して、じゃあみんなでどうするかねという話し合いが行われるようになってくる。その過程で、人と人とが知り合う。
上位病院の人も下位の人たちを知っているし、下位の人も上位病院の人を知っていて、あの人だったら相談できるかなと思って電話したんだと思うんですよ。そういう関係ができたことが、あるいはそういうことを作ってきたことが、ひいては地域医療連携、それは地域に限らず、たとえば同じ病院内でも同じだと思うんですけれども、そういうことをしてきたのかなと思います。
ヨーコ:何か土井さんの雰囲気も何か日本から行って偉そうに何かをやるという感じではなくて、すごく一緒に同じ釜の飯を食うみたいな感じでやっているところもうまくいった要因なんでしょうかね?
言われてうれしかった言葉とかありますか?
土井:そうですね。毎日オフィスに行く前に病院に寄って行ったんですけれども、それを見ていた人が何人もいたんですね。「お前は毎朝、この前を歩いているよな」っていう。それから病院を回っていて「いつも来てくれているね。ありがとう」なんていうことを言われたときもあって、そういうときはとてもうれしかったですね。
ヨーコ:地道な活動がこういう大きな業績というのでしょうか、そういったものを生んでいくんですね。
マスター:そうだと思いますね。

ヨーコ:いかがでしたか? 今回は「ベトナムの地域医療連携」について、国立国際医療研究センターの土井正彦さんからお話をうかがいました。お相手は、
マスター:マスターの明石秀親と、
ヨーコ:香月よう子でした。それではまた来月、第3火曜日午後5時10分にお会いしましょう。この番組は、生きる力をともに創る、NCGM国立国際医療研究センターの協力でお送りしました。

お知らせ

お知らせ一覧