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グローバルヘルス・カフェ

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聴く「第14回「赤ちゃんを助けたい-新生児科医の挑戦」(2015年8月18日放送分)」


<出演>
マスター:明石 秀親(国立国際医療研究センター)
ヨーコ:香月 よう子(フリーアナウンサー)
岩本:岩本 あづさ(国立国際医療研究センター/医師)


■ カフェへようこそ!

ヨーコ:お元気ですか、グローバルヘルス・カフェ、香月よう子です。国際医療協力にかかわる人たちが通うカフェってちょっと変わってませんか。ここのマスターはとても面白いので、わたし気に入って通っています。それではさっそく、カフェに入ってみましょう。

マスター:グローバルヘルス・カフェのマスターの明石です。あそこにいるのは岩本さんですね、いつも常連で来てくれてんですけれども、彼女は新生児科の医者なんです。彼女と最初に出会ったのは阪神大震災の現場で会いましたね。

ヨーコ:マスター、何ぶつぶつ言ってるの?

マスター:いや、ちょっと新生児科のことについて考えてたんだ。

ヨーコ:新生児科?
マスター:よくわからないでしょ。
ヨーコ:うん。
マスター:一生のうちで最初の、生まれて初めて28日間、まあ1カ月ですよね、1カ月間だけお世話になるお医者さんです。
ヨーコ:そういえば、私もね、子供の出産のときに結構大変だったから、生まれてすぐに新生児科のお医者さんにはすっごくお世話になりました。
マスター:ああ、そう。あそこにいる岩本さんはね、新生児の命を救うということで、いろんな国で活躍しています。

■ 新生児はとても弱い存在

ヨーコ:岩本さん、こんにちは。
岩本:こんにちは。

ヨーコ:新生児って本当にちっちゃくて、可愛いですよね。どうして岩本さんは新生児を専門とするようになったんですか?
岩本:はい。私は日本の国立病院で新生児集中治療室というところで、医者として働いていたんですけれども、ちょうど2000年、いまから15年前に、インドの首都のデリーの大きい小児病院で新生児ケアの仕事をしませんかというお話をいただいて、それでそのお仕事を始めたというのがきっかけです。
ヨーコ:そこから国際医療協力に入っていったということですね。
岩本:そうですね。

ヨーコ:新生児というのは非常に弱いんじゃないかなという気がするんですが、具体的にはどういった病気にかかりやすいんでしょうか?
岩本:そうですね、本当に弱い存在で、十分に注意しておかないとすぐに命を落としてしまいます。その原因は大きく分けて3つあるといわれていて、これは途上国といわれるところではだいたい共通しているようです。
1つは小さく生まれる赤ちゃんですね。それも2種類ありまして、体重が小さい赤ちゃん、2500グラムより小さいとちょっと注意がいるといわれているんですが、体重がちゃんと大きくなるのを見届ける必要があります。
もう1つは、お母さんのお腹の中に長くいられなかった赤ちゃんで、やはりそういう赤ちゃんも未熟性が強いといわれているので、特別な処置が必要になります。それからですね、赤ちゃんは母さんのお腹の中では胎盤からへその緒につながっている管といいますか、を通じてお母さんから酸素をもらってるんですけど、生まれてきておぎゃーと泣くと肺の中が開いて肺呼吸に変わるんですけれど、ある一定の割合でその切り替えがうまくいかないことがあります。これを仮死と呼んでるんですけど、その場合には呼吸をちょっと助けてあげるというケアが必要になってきます。
3つ目が感染で、とにかく清潔にするということが必要になっていきます。

ヨーコ:こういったことに対する対策というんでしょうか、そういったものは確立されているんですか?
岩本:そうですね。ケアする側も、いろいろなことを考えていて、これも3つ紹介させていただきたいと思うんですけど、とてもみんなシンプルなことなんですけれども、なかなか実際やるのは大変なものもあるんですが、1つ目はですね、あったかくしておくということです。
赤ちゃんは小さくてとても寒い状況に弱いので、必ずある一定以上の気温の中に置いてあげることが必要です。
2つ目はそのなかで栄養をちゃんと補給するということで、これもシンプルに余計なものは一切いらなくてお母さんのおっぱいを生まれてからすぐに吸ってもらって他のものはあげずにお母さんのおっぱいだけで生後半年ぐらいは過ごすということがベストだといわれています。
3番目はさっき言ったように、赤ちゃんになかなか感染から身を守る力がないので、これもシンプルに赤ちゃんに触るときは手を洗うという。触るたびに手を洗ってそれを繰り返すということが必要になってきます。

■ 多職種の協働に役立った日本のお菓子

ヨーコ:いまお聞きしたことっていうのはとても簡単なことじゃないですか。でも、なんか赤ちゃんの死亡率が途上国では高いっていうイメージがありますよね。こんな簡単なことなのに、どうしてこうできていないというか、亡くなるイメージがあるんでしょうか?
岩本:そうですね。そこが難しい点なんですけれど、1つはスタッフが、たとえば日本のようには充足していないことが挙げられると思うんですね。途上国の厳しい条件のなかでは、きめ細かいケアというのがなかなか難しいことが多いというのが1つ挙げられると思います。

ヨーコ:つまり、こうですよというふうに知っていてもなかなかそれがその人員のこととか、いろいろな意識のこととかで、実践できないということが割と問題。

岩本:そうですね。
ヨーコ:さあ、これをですね、岩本さんはどうやって変えていかれたかという。
岩本:そうですね、なかなか解決法を見出すのは難しいなといつも感じるんですけれども、こういう新生児の赤ちゃんの医療とかケアというのは、私たち医者だけではできないんですね。それよりもといいますか、それ以上に赤ちゃんを24時間見ているという看護師さんだったり助産師さんだったりという、総合的な力がとても必要とされる分野です。どの分野もそうだとは思うんですけれども、さっき言ったように何も一人ではできない。それから言葉を話せないので、何かを訴えてこられるという機会がないなかで24時間同じレベルでケアをするには、やっぱりチームとして総合的な医療とかケアの力が必要になってきます。それを、こういくつかの国でお伝えするということは、いろんな工夫をしています。やはりみんなで話し合う。特にいろんな違う職種、医師、看護師さん、助産師さん、もっというと検査の人だったり、薬剤師さんだったりという方をできるだけ同じ場でいろんな経験を共有するっていうために、たとえば日本のお菓子を持参して、ちょっと日本のお菓子を食べてみませんかという呼びかけをして、割と気楽な感じでそういう会を開いたりとかということはよくしてきました。

ヨーコ:なるほどね。勉強しますとか、レクチャーしますという構えではなくて、情報を共有できる場を作ることがまた重要。
岩本:そうですね。
ヨーコ:日本のお菓子を食べませんかと言って、いろんな立場の人たちが集まることによって、やっぱり変わっていくものですか?
岩本:そうですね。
ヨーコ:新生児のケアのチームというのは独特の雰囲気があると聞きましたが。
岩本:そうですね。私もそのなかにいるとよくわからないんですけど、なんかホンワカした感じですね、と言われることが多いです。
ヨーコ:みんなこう、新しい命、赤ちゃんが好きという人たちが集まってることは確かなんですね。
岩本:はい。仕事は大変でも、新しい命をお世話させていただくとか、あるいはご家族にとっても赤ちゃんが元気だとそれはとても幸せな瞬間なので、そういうことを一緒に経験できるという幸せ感は常にあります。

■ 産婦人科・小児科との連携も重要 

ヨーコ:いままでいろいろお話聴いていて、まあお母さんと子供の健康を考える母子保健というのね、途上国支援の大事な柱っていうことはいままで少しわかってきたような気はするんですが、正直言って、新生児に対する支援ていうのがあるっていうのはちょっとこうあまり自分のなかで意識になかったなあって思いました。
岩本:はい、時々そういうことを言われまして、地道な仕事なのかなというふうに考えているんですけれども、今年、2015年に向けて子供の死亡率を減らそうと国際社会はとても目標を立てて頑張ってきて、子供という、5歳未満の子供さんたちの死亡というのはだんだん減ってきたといわれています。

ヨーコ:なるほど、じゃあこれからますますその新生児ケアというのは大事な重要な位置になっていくんじゃないかと思います。すごく地道な活動ではあるんですけれども、岩本さんとしてはどういうことをやっていけばもっともっとよくなっていくと思いますか?
岩本:そうですね。いままでお話してきたような基本的なことを確実にやるということと、あとはやっぱり一定数はかなり集中的な治療を必要とする赤ちゃんは生まれてくるので、同時にそれも充実させていくということももちろん必要だと思います。
それから、やはり、新生児科だけというよりは、お腹の中にいるときから産婦人科のチームとも情報共有するということも最近では大事といわれているので、生まれてきてから初めていろんなことを知るよりは、お腹の中にいるときの情報を知るということも途上国でより大切になってくると思います。
それからですね、いままでは新生児医療というのは、そこで助けることが一番、一生懸命私たちもやってきたんですけど、助かった後にその赤ちゃんには長い人生があるので、たとえば小さく生まれた赤ちゃんがどのように成長していくのかということを見守って、必要な、たとえば療育だったりとか、そういうことを提供していくということも途上国で今後、求められていく分野だと思っています。
ヨーコ:それでは、やはりそのチームという、新生児チームの他にも産婦人科医との連携とか、その後の小児科とか他の科との連携というのもますます必要になってくるということですね。
岩本:そのとおりです。

■ "ホンワカ"したなかから気持ちが通い合う

ヨーコ:マスター、国際協力って、国の仕組みを作ったりとか、偉い人たちとね、大臣とかと話し合いしたりとか、バリバリ私やりますっていうイメージの人がなんか多いイメージだと思ってたんですが、岩本さんてやっぱりホンワカしてらっしゃいますよね。
マスター:ホンワカしてますね。やっぱり、なんていうのかな、必ずしもバリバリ指導する人に相手がついてくるということでもなくて、ホンワカしたなかでなんかお互いの気持ちがわかりあえる、通いあう、みたいななかで何かが伝わる、そういうところも多いんじゃないかと思いますね。

ヨーコ:いかがでしたか? 今回は「赤ちゃんを助けたい-新生児科医の挑戦」をテーマに、国立国際医療研究センターの岩本あづささんからお話をうかがいました。お相手は、
マスター:マスターの明石秀親と、
ヨーコ:香月よう子でした。それでは、また来月、第3火曜日午後5時10分にお会いしましょう。

ヨーコ:この番組は、生きる力をともに創る国立研究開発法人 NCGM国立国際医療研究センターの協力でお送りしました。

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