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グローバルヘルス・カフェ

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聴く第18回「国際医療協力とイノベーション」(2016年6月21日放送分)


<出演>
マスター:明石 秀親(国立国際医療研究センター)
伊藤:伊藤 洋一(エコノミスト/常連客)

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デジタルは"壁崩し"の技術

マスター:いらっしゃいませ、グローバルヘルス・カフェへようこそ。コーヒーですね。

伊藤洋一:こんにちは。あら、先客がいらっしゃるんですね。はじめまして、エコノミストの伊藤洋一です。

マスター:伊藤さんは国際経済がご専門なんですよね。

伊藤:国際経済ですけれども、結局全てつながっているじゃないですか。政治も見ますし、社会も見ますし。最近はどうですかね、AIとかね。イ・セドルに囲碁でAIが勝ったじゃないですか。僕、ずっとAIの取材をしていて、IBMさんとかいろんなところにお伺いしていますけれども、それがみんな最初のターゲットとしている領域は医療だと、こう言うんですよね。つまり、AIというのは人工知能で、お医者さんの領域ってみんなセグメント化されていますよね。それを、AIを使って統合すると思わぬところから回答が出てくるっていう。世界は高齢化していますし、AIというのはそういうところから一般に普及しているのかいう感じがひとつ。それと、世界的に人口が減少傾向に入っていますよね。OECDの生産年齢人口も今年が頭打ちです。要するに、世界が成長に対する考え方を大きく変えてきている。そこらへんが私の関心項目ですかね。

マスター:なるほど。そうすると、経済そのものも国境が無い感じだし、それに対していろんなインターベンションというか、それもAIを中心に、ITとかいろいろあるんでしょうけれど。

伊藤:最初からデジタルが出てきた時に、これは壁崩しの技術だと僕は思ったんですね。つまり、壁崩しって何かというと、デジタルが普及する前の産業ってどんどん専門化していったわけじゃないですか。でも、デジタルっていうのは横串を通す技術なので、全ての情報が、今なんかクラウドでね、集合されて、その中でもまれてAIを通じて、何か問い合わせがあればAIが回答を出すみたいな状況になってきているので、これからの時代は、専門化よりむしろ統合化の、つまり隙間を埋める知識とかそういうものが非常に重要になってくると思っているんですね。

マスター:経済だけじゃなくて、それを突き崩す、もしかすると経済と医療とか、経済と保健とか、経済と何とかとかという話だけじゃなくて、そこの間の壁も崩れてきているかもしれないということなんですね。

■ BOPビジネスの考え方が製薬業界や支援体制の流れを変えている

伊藤:私が最近見たテレビ番組で、薬は誰のものかという番組をやっていたんですね。ものすごく資本主義が変わりつつある大きな変化だと思ったのは、たとえば製薬会社って先進国の豊かな層相手にしか薬を作らないじゃないですか。

マスター:これまではね。

伊藤:お金払う人はそこにしかいないわけだから。

マスター:開発にもかかるし。

伊藤:そうなんですよ。エイズとかそういう薬がなぜ普及に遅れたのかというならば、要するに作ろうともしなかった、世界の主要な製薬会社はね。でも、そういう流れが変わりつつあるというのは感じていて、でもどういう方向に行くのかなとずっと関心があるんですよね。

マスター:なるほどね。たぶん、薬を買えないというだけじゃなくて、オーファンドラッグというのですけど、買える層、ターゲット、患者さんがそんなに数がいない。たとえば風邪薬だったら世界中でいっぺんに売れちゃうけれど、(エイズなんかは)一部の人しかかからないので、結局開発コストがペイしない。したがって単価を高くせざるを得ない。というようなことも動いていましたね、確かに。

一方、やはり世界的に、今までの企業として利益を追求するという形だけじゃなくて、ご存じのように、社会貢献というのをまあどちらかというと会社の本業にしているという動きが出ていると思うんですよね。それが社会的企業とか、それはまあ企業のCSRが発展した形だと思うのですが。いずれにしろそういう企業側の変化、それはBOPビジネスもそうですけれど。BOPというのはですね、世界の人口をピラミッドとして考えると、一番トップにいるのは高所得者の人たち。次は中間。それで一番底辺の、年間所得が3,000ドル以下の低所得者層をBOPBase Of Pyramid)といっていますが、これを消費の市場として捉えて、それをビジネスに結び付けるという考え方なんです。その人たちの社会的課題を解決に向けて図りましょうと、そういったような動きそのものが全体としてBOPビジネスという考え方。そういうことが起こっている。それの背景には世界的な経済の発展などや、グローバル化があります。それだけじゃなくて、たとえば交通、移動の容易性。たとえば途上国といえども、お金持ちの人は昔はその国の中で医療を得ればよかったけれども、隣の国に行ってしまえば、良い医療が得られますということがまあ普通にできるようになってきている。

さらに援助側では、今までは国対国の援助、あるいは国連機関を中心にと行っていたのが、NGOが出てきますよね。さらに今それがアライアンスという形で、企業も入るし、国連機関も入るし、国対国のバイというのですけれども、そういった機関も入るようなアライアンスができ、さらにそれがクラウドファンディングなどの形で、個人個人が別の人たちのいいこと、それは企業か中小企業かもしれないし、そういうことに直接ファンドできるようになってきている。

ということを考えると、要するに今までの大きな企業が全てを動かすという時代だけじゃなく、要するに個人の力で個人のそういう活動をエンカレッジする。そういうことによって新しい、たとえば先ほどの薬の開発かもしれないし、薬の開発だけじゃなくてその仕組みの開発なんかにもつながってきているんじゃないかなと思うんですよね。

■ 銀行がお金を貸すことの意味

伊藤:金融の世界では、薬とよく似ていて、大銀行が世界を支配しているみたいに言われているんですけれど、バングラデシュではね、グラミン銀行というのがあって。本当に字も読めないバングラデシュの女性たちに針とかそういうものを買うお金を融資して、それによって彼女たちが何らかの生産ができるようになって逆に返せるという、小さいところから始めて産業を興していくみたいな努力をしているんですよ。大企業のなかでも消費者の目としてはフェアトレードなんかが広がってコーヒーの産業が抱える深刻な問題とかあって、要するに上から目線ではなくて下からも見ていこうというところがあるわけじゃないですか。医療ではそういう動きというのはないですか。

マスター:いや、ありますね。実際にたとえばグラミンの場合ですね、ユヌス先生、モハメド・ユヌスさんというのはノーベル平和賞を取った方ですけれど、あの方ともお話したことがあるんですけれど、講演のなかで言っていたのは、「銀行というのは元々お金の無い人たちに貸すところです」と。ところが......

伊藤:今どうなってるんだ。

マスター:そうそう、やれ担保はどうなんだ、やれ何とかはどうなんだという。それでユヌスさんはチッタゴン大学の経済学の教授だと思うんです。

伊藤:そうです。

マスター:そういうなかでお金の無い人、彼らは別に巨額のお金が必要なわけじゃないんですよね。ユヌスさんは最初お金を貸してくれと言われて、確か20ドルくらいお貸しした。返ってくるのかどうかわからないなと思っていたら返ってきたと。それで借りた人はそれを元手に稼業というか起こした。小さなことで変えられる、というのをある種組織化して、ほかのところに移植したと。グラミンは銀行だけじゃなくて、ヘルスとかいくつかやってるんですよね。モバイルフォンとか。ヘルスのトップと話しても、地域の人たちが普段(医者に)かかれない、要するに大都会に行かなければならないといったことも解消するように、少額でも(医者に)かかれるというようなことをやっていますよね。

だからお金を貸すってかなり経済的に見えやすい話ですけれども、それだけじゃなくて、保健医療サービスへのアクセスを改善するような動きも出てきていますし、実際にそれを医療サービスとつなげるというようなことを彼らはやっている。日本でいうとたとえばワンコインサービスみたいなものを始めているNGOみたいなのもありますけれど、そういったような動きはありますよね。

■ 途上国でも予防医療が広がっている

伊藤:なるどね。それからもう1つ。僕ね結構ランニングが好きなんですよ。明治公園、北の丸公園、いつも6時半に行くと大勢の若い人も含めてラジオ体操しているんですよね。

マスター:なるほど。

伊藤:おお、これはすごいな。そう思っていたら、旧エルピーダが何歩歩いたかによって、ボーナスやるよと。一番歩いたら2万円やると、増やすというんですね。それで医療って病気にかかった人を診るのが医療だと思っている人が多いんでしょうけれども、かかる前に何かしようというムーブメントが出てきて、それはとっても重要なことだと思うんですよ。つまり、歩けるうちは歩く。動けるうちは動く。食べれるうちは食べるという基本的なことが必要で、歩け歩け運動でもないけれどね、僕が世界各国行っても、日本は朝歩いている人が一番多い国です。それはものすごく結構なことだと思っていて、そういうベースのところから医療というのを考えられないかなと。そういうことを含めていくと、結構成長性がある分野かなといつも思っているんですよ。

マスター:そうですね。そう思います。途上国であればあるほど、予防という概念がなかなか定着しにくいというか、要するに自分が健康と感じているときは、別にお金を払ってまでどこかに行こうとは思わないわけですよね。だから、そういうときに予防という概念はそのことにお金を払ってもいいという一歩進んだ形だと思うんですよ。だから、なかなか途上国にそういう概念を広げるのは難しかったんですが。今までは途上国で亡くなるというのは感染症とか母子の死亡が多かったんですけれども、それが下がり切らない前に、生活習慣病系がやはりもう出てきているんですよ。

伊藤:なるほどね。

マスター:糖尿病であれ、高血圧であれ。なってしまってから治療すればいいのかというと、それはかなり高額なお金がかかる。ですからそれに対して、たとえばインシュアランスの保険制度を入れるとすると、かなり経済的な負荷がかかってしまう、その制度そのものに。それよりは予防ということにお金をかけるというか、そのことに目を向けていかないと。おっしゃるように、(病気を)未然に防ぐことによって、そんなにコストをかけなくても、健康であって、健康寿命が伸びればいいわけでしょ。だから、たとえばモバイルフォンを使って、自分の、先ほどの運動もそうですし、あるいはそのことに対して健康指導をするとか、そういったような試みなんかも出てきている。今までそういうのは逆にいえばテクノロジーとしてもできなかった。それが今そうじゃなくなって、ウェアラブルでそういうのがどんどんできるようになってきている。だから、そのことは途上国でも可能は可能なわけですよ。そうするとそれをどうやって買いやすい値段で提供するかという部分と、それをシステムとしてどうやって維持、提供するか、サービスを提供するかという、そういった考え方は必要になってくると思いますね。

■ AIが医療を変える

伊藤:なるほどね。ウェアラブルの話が出たので、今ちょっと腕を出しているんですけれども、これアップルウォッチなんですね。それで、これは私の運動量を毎日きっちり計ってくれていて、これは私が持っているiPhoneとも常時情報交換してるんですよ。たとえば、これがAIとつながっていつも分析してくれるなら、私が今どういう状態にあるのかという、脈拍も全部計れるんですけれどね、これはやはり革新になりますよね。

マスター:と思いますね。

伊藤:要するに前兆がつかめるという意味で。最初にAIの話をしたのは、お医者さんのセグメントってわかり過ぎていて、最近よく聞くのはいい先生に当たったんで助かったとかね、がんになった時にね。それはないだろうと思うわけですよね。いい先生がアメリカにいて、いい先生がバングラデシュにいなかったら、バングラデシュの人はたとえば特殊ながんになったら治らないのかという話になりますよね。でもだから、アメリカにいるいい先生の知識が人工知能の中に入って、バングラデシュでも何かを導き出せたのなら、それはいいことだと思うので、医療の世界もテクノロジーによってめちゃめちゃ変わるだろうと。

マスター:そうでしょうね。

伊藤:それで僕の腕にもウェアラブルがあるわけだから。ただ、まだこれ4万円と、途上国の人には高いわけですよ。これどうするのかという話も含めて、お伺いしていきたいなと思うんですけどね。

マスター:技術はね、そのウェアラブルもそうだし、今ドローンとか出てて、ドローンで実際に、

伊藤:薬の配送ね。

マスター:そうです。あと輸血とか実際にやりだしている。アフリカでもやっているといいますし、テクノロジーそのものも、たとえばゲーミフィケーションみたいなね、ああいう要するにソフト系でどうアプローチするか。今、ある種アイデアしだいで健康に対して介入できるし、いいツールなりサービスを提供できるし、そのことを可能にするテクノロジーなり、新しい考え方がどんどん出てきているのかなと。そういう時代なのかなと思いますけれども。

伊藤:これからどんどん具体的ないろいろ教えていただきたいと思います。今日、おいしいコーヒーでしたね。

マスター:ありがとうございます。またぜひいらっしゃってください。

伊藤:マスターが入れたんですか。

マスター:もちろんですよ。

伊藤:ははは。僕はキリマンジェロが大好きなんですよ。

マスター:ああ!そうなんですか!

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